漬物男子、田中友規です。
みなさん、薬味はお好きですか?
生姜や大根おろし、きゅっと絞って加える柑橘類など、いわゆる毒消しとされる野菜は、その衛生面での効果だけでなく、そのものの清涼な味わいが古くから好まれ、日本料理だけでも無数に存在します。
脇役でありながらも料理の味を大きく左右する薬味は、元々その漢字が意味する通り、中国医学の漢方薬に由来しており、なんと1世紀に書かれた書物に薬味という言葉が使われていたそうです。
日本でも室町時代には医者が薬味を調合しており、百味箪笥の中から漢方を組み合わせ、各家庭で手に入りやすかった生姜だけは、自分で一味、加えるように、と処方箋を出していたそう。つまり生姜は、庶民に一番近いお薬だったのです。
ちょっと食欲のない時は、「おろし生姜に酢橘を絞って、軽くお素麺かな」なんて思うのは、自然と生薬を身体が求めているのかもしれません。
また「薬味を加える」という言葉から派生した、ねぎや生姜を加えて炊き込んだ「加薬ご飯」なんていう言葉もありますね。いまや随分と解釈の幅が広がり、カップラーメンの具にある、謎の肉や乾燥エビなんかもひっくるめて「かやく」と呼ばれています。
気づいてみれば、薬の意味からはずいぶん遠のいてしまいましたが、なにかを加えて変化をもたらすというのは、食を楽しむ上で重要な要素です。
さて先日、四国に伺う機会があり、生姜やみょうがなどを生産する農家を訪ねてきたのですが、まさにそこは薬味大陸。
中でも柑橘類の豊富さは素晴らしく、青柚子、かぼす、酢橘、へべす、じゃばらに仏手柑(ぶしゅっかん)。
どれも薬味と合わせれば、各々個性的な酸味と風味で、これほどまでに香りが変わるのかと驚かされます。
名物カツオのタタキも、たっぷりと乗せられた新鮮な薬味と柑橘果汁あってこそ。
ひとつひとつ味見してみると、やはりそれぞれの柑橘に個性があるもので、青柚子は軽快な甘みを持ち、かぼすはやや野趣のある酸味、圧倒的にバランスよく食材を引き立ててくれると感じたのは酢橘でした。
小ぶりで皮も薄く、しかし果汁豊か。
香りはキンと一本筋の通った刺激を持ちながらも酸味は至極上品です。果汁はもちろん、皮をすりおろして薬味として使えば、草原のような青い香りが優しく広がります。
これらは青酸柑橘類という薬味に分類され、血行促進、消化促進、疲労回復、消炎作用など様々な効果を持っています。加えれば薬となる味。
生姜と酢橘の相性が良いわけ、それは理屈よりも、食べてみれば身体に沁みて伝わってくることでしょう。
ここでひとつ、薬味が大好きな人にだけ教えたいベトナム料理があるんです。
米粉のつけ麺料理「ブンチャー」という料理で、本来はライムを使いますが、酢橘で食べるとより美味しい。
2016年当時、アメリカ大統領だったバラク・オバマ氏がベトナム訪問中に食べたストリートフードとして有名になりました。
- 米麺、なければ素麺
- もやし
- 青じそ
- パクチー
- バジル
- ミント
- レタス
- 牛肉
- 酢橘 各々適宜
- 生姜 スライス2〜3枚
- にんにく 1かけ
- 青唐辛子 1本
- 魚醤 大さじ2
- 酢 大さじ2
- 砂糖 大さじ2
- 水 200cc
※ポイントは牛肉をグリルでしっかり焦げ目をつけて焼くこと。
つけだれに焦げた香りが移り、ひとつの香辛料となります。
甘酸っぱいタレに、たっぷりと酢橘を加え、薬味と麺をずるりずるりと頬張ってください。
複雑な薬味の香りのかけ算と、酢橘の繊細な酸味、肉の旨味がさらに交差して、食べれば食べるほど胃が軽くなるのを感じるはずです。
オバマ氏に同席したのがアメリカの型破りシェフであるアンソニーボーディン氏とのことで、地元の大衆店のチョイスはきっと確信犯。
公務の疲れとベトナムの暑さに、薬味で滋養強壮を、と考えたかは分かりませんが、素晴らしいチョイスだったと思います。
これだけ大量の薬味を味わうブンチャーは、ハマる人と苦手な人がはっきり分かれる料理です。どうぞ薬味好きな人と一緒に味わってみてください。
え?あなたも薬味が大好きですって?
では私の一味に加えてあげましょう!
田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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