こんにちは、こんばんは。
くりたまきです。
夏になると、一斉に鳴き出す蝉たち。ミーンミーン、ジージー、など蝉の種類によっていろいろな音を奏でていますが、中でもひぐらしの声は、涼しさがあって耳に残ります。
「カナ、カナ、カナ、カナ……」
これがひぐらしの鳴き声です。みなさんは聴いたことがありますか? 一抹の寂寥感を抱かせる、美しい声。明治時代の作家・小泉八雲は『蝉(シカダ)』のなかで、ひぐらしについて、こんな内容のことを書いています(すこし、現代っぽい言い方に変えてお届けします)。
ほかの蝉はその音楽を燃える日盛にだけ奏でて、雨雲が日の光を遮るときさえ鳴きやむのに、ひぐらしは未明と日没にだけ歌う特別な黄昏の楽師である。その声は、いかにも上等な呼鈴を極早く振る音に酷似している。(中略)金属の反響のように力の強い音だけれど、優雅とも思えるくらい音楽的だ。そしてひぐらしの鳴き声には、日が暮れはじめる時刻と調和した一種特別な悲哀な調べがある。
ひぐらしの音色の美しさを、とてもよく表しています。
明け方や日暮れによく鳴くことが由来で名付けられたという、ひぐらし。梅雨の6月下旬くらいから活動しはじめ、9月頃までその声を聴くことができます。鳴き声が夏の終わりをイメージさせるためか、秋の季語になっています。
このあいだ、会社の先輩とドライブをしました。6月に引っ越してきた長崎県波佐見町の中をぐるりと回る、のんびりした時間。途中、山の中の田んぼに面した道で停めてもらいました。
ほかに行き交う車もなく、夏の日差しの中、緑の稲の上を撫でていく風と雲の影。ぼうっと眺めていると、風の音のほかに、カナ、カナ……と鈴のような鳴き声に気づきました。
「綺麗な音ですね。この鳴き声、どんな虫でしたっけ?」
「くりたさん、これは、ひぐらしよ」
お恥ずかしいことに、それまでわたしはその名前くらいしか知らず、先輩に言われて「ああそうか、これがひぐらしの声か」と、はじめてきちんと認識したのです。
目の前をそよぐ稲のささやかな音と、周囲の山の中から響いてくるひぐらしの声。澄んだ音色がからだに染み込むよう。そして、じっくりその声を聴くことで、秋の季語になっている理由が身をもってわかったような気がしました。
わたしはきっと、肌寒くなってきたら、ちょっと切ない気持ちになって、この声を思い出すと思うのです。
栗田真希
ライター
横浜出身。現在は東京、丸ノ内線の終着駅である方南町でのほほんと暮らす。桜をはじめとした花々や山菜が芽吹く春が好き。カメラを持ってお出かけするのが趣味。OL、コピーライターを経て現在はおもにライターとして活動中。2015年準朝日広告賞受賞、フォトマスター検定準一級の資格を持つ。
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