翡翠かわせみ

旬のもの 2020.11.30

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和暦研究家の高月美樹です。

私は日常的にカワセミが見られる場所に暮らしています。カワセミの鳴き声は独特で、「チーーッ!チーーッ!」と他の鳥たちの中でも特別鋭く、高いキーなので、家の中にいても、あ、カワセミが来たなということがすぐにわかります。
声を聴いてから出ていけば、ほぼ姿が見られます。

都会のカワセミはなかなかの人気者。なかには気づかずに通りすぎていく人もいますが、「わあ、きれいねえ」「川の宝石っていうのよね」などと、口々に言いながら、しばし立ち止まってみています。

鳴き声と同様、飛び方もじつにシャープです。川にいるときは、水面近くを直線的にシュッと素早く飛んで、移動していきます。羽を広げると、目の覚めるような鮮やかなコバルトブルーが光って、それはそれは美しく、まさに「飛ぶ宝石」。しかも、かなり高速で飛びますので、ほんの一瞬の出来事で、専用のカメラがないと撮影することはなかなか難しい鳥です。

羽はまさにラピスラズリを思わせる見事なコバルトブルーですが、背中にはひとすじ明るいライトブルーがあります。このライトブルーは光を反射する構造色だそうで、眩しいほど輝いてみえます。お腹のオレンジも大きなチャームポイント。喉と首は真っ白で、それがブルーやオレンジを際立たせ、より美しく見せています。

ずんぐりむっくりした大きな頭に、大きなクチバシ。狩人らしい鋭さをもった大きくつぶらな瞳。なんとも愛らしいフォルムで、バードウオッチャーを夢中にさせる鳥です。

じっとしているときは、時々ひょっこり、ひょっこりと首を小さく上下させ、しゃっくりのようなしぐさをしています。頭でっかちな頭をさらに身体にうずめるようなその姿はなんとも愛嬌があって、見飽きません。

巣立ちの季節には、親子でしきりに呼び交わしたり、親が一生懸命、狩りを教えている姿を目にすることもあります。カワセミはなんといっても狩りの名手。ほぼ垂直に近い角度でドボンッと水に飛び込んで、違うところから出てきたりします。獲った魚はくわえ直し、上手に叩きつけて締めてから食べます。

親はこうやって獲るのよ、と手本だけ見せて、せがまれてもなかなかあげなかったり。はい、じゃ、次は自分でがんばって、とばかりに別のところに飛んでいってしまい、子どもがあわてて追っかけていったりするのを見かけます。

子どもが無事に巣立っていき、冬になると、カワセミは夫婦であっても別れ、単独行動に戻ります。狩りをするカワセミは縄張りを必要とする鳥なのです。カワセミの鮮やかな色は自分の存在をしっかりと示し、テリトリーを主張するためだといわれています。

それにしても美しい。そして機敏で、かっこいい鳥です。かつては「幻の鳥」、「渓流の宝石」とも呼ばれましたが、80年代以降は都内の川にも進出し、案外、元気に生きています。ちょっと気をつけてみていただくと、見つけられるかもしれません。そのためにも声を覚えていただくと、見つけやすくなります。

わが家の場合は、リビングの窓を真横にシュッと横切ることもありますし、窓からみえる樹木の茂みからブルーがチラチラとみえていることもあります。

カワセミは漢字で翡翠と書きますが、翡はオス、翠はメスのカワセミを表わし、メスとオスで翡翠です。宝石の翡翠(ひすい)はこの羽の色からつけられたもので、鳥の名前の方が先なのだそうです。

ところで、同じカワセミ科のアカショウビンも大好きな鳥で、初めて知ったのは奄美の自然を描き続けた日本画家、田中一村(たなかいっそん)の絵です。熱帯独特の植物とともに描かれたアカショウビンはなんとも印象的でした。そしてその声たるや!「キョロロロロロ」というなんとも美しい声。動画でぜひ検索してみてください。

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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