こんにちは、俳人の森乃おとです。
私たちの生活が大きく変化した一年が、まもなく終わろうとしています。
日々深まっていく寒さの中、道しるべのように赤い実を輝かせている小さな常緑樹が、センリョウ(千両)とマンリョウ(万両)です。2020年最後の回では、幸福をもたらす正月の縁起物として、愛されてきたこの二種類の植物をご紹介します。


正月の縁起物「万両」「千両」、そして「百両」「十両」「一両」も
見た目も名前もとてもよく似ていますが、センリョウとマンリョウは科が異なります。
センリョウはセンリョウ科、マンリョウはサクラソウ科ヤブコウジ属の常緑小低木。どちらも高さ1mほどで、赤い小さな実をつけます。

見分け方は、実のつく場所の違い。センリョウは枝の先端に実の塊をつけますが、マンリョウは葉の下側に幹を取り囲んでつけます。また、センリョウの葉は対生なのに、マンリョウの葉は互生で、縮れて波打っています。実もマンリョウの方がやや大きめです。

濃緑の葉と赤い実のコントラストが共通する、めでたい名前の木はセンリョウとマンリョウだけではありません。「百両」「十両」「一両」と呼ばれる木もあります。

百両はカラタチバナ(唐橘)の別名。十両はヤブコウジ(藪柑子)の、一両はアリドオシ(蟻通し)の別名です。「百両」「十両」はマンリョウと同じサクラソウ科、一両は「アカネ科」です。
いずれも正月の縁起物として愛され、江戸時代から明治時代にかけての園芸熱の対象となりました。
この5種類をそろえて庭に植えると、お金持ちになったような豊かな気持ちがします。森澄雄の一句はそうした喜びを詠んだもの。後の2句は、それぞれの見分け方の難しさをユーモラスに詠んでいます。

5つの名前は、相互に関連して生まれました。その始まりになったのは、おそらく「百両金」という中国名を持つカラタチバナ。品種改良された変異種が高額で取引されたことから、江戸時代に「百両」と呼ばれるようになりました。次いで、それより実が美しいということで、センリョウの表記が、もともとの中国名「仙蓼」から「千両」に変えられました。さらに、もとの名前は定かではありませんが、センリョウより実が大きな木が「万両」と呼ばれるようになったそうです。続いて明治時代には、「十両」「一両」という名前が生まれました。

大伴家持 万葉集 巻十九
家持が雪の降った日に詠んだ歌です。山橘(やまたちばな)はヤブコウジの古名。歌意は「この雪が消えないうちに、さあ行こう。山橘=ヤブコウジの実に雪がかかって真赤に輝いて姿を見よう」――。
ヤブコウジは縁起物の5種の中で、唯一万葉集に登場する気品あふれる樹木です。それが気の毒にも「十両」とされてしまいました。

「一両」とされたアリドオシは、蟻をも突き通すような鋭い棘を持ちます。江戸時代には「千両万両 有り通し」という、お金が尽きることがない状態を願う語呂合わせがありました。
幸いなことに、「万両」と「千両」は和名になりましたが、「百両」以下の別名はあまり使われなくなりました。
花言葉は「寿ぎ」
センリョウの花言葉は、「利益」「祝福」「富」「財産」「恵まれた才能」「可憐」。
マンリョウは「寿(ことほ)ぎ」「財産」「金満家」「徳のある人」「慶祝」。二つともめでたい名前にちなみます。
さて、皆さまの新年に幸あらんことを。

センリョウ(千両・仙蓼)
別名 クササンゴ(草珊瑚)
学名Sarcandra glabra 英語名も同じ
センリョウ科の常緑小低木。東アジアからインドに分布。日本では南関東から沖縄までの常緑樹林帯に自生。夏、茎の先端に雌しべと雄しべだけの薄緑色の花を穂状につける。実は直径5㎜ほど。
マンリョウ(万両)
学名Ardisia crenata
英語名 coral bush
サクラソウ科ヤブコウジ属の常緑小低木。東アジアからインドに分布。日本では関東地方以西に自生。夏、小枝の先に散らばった白い花を咲かす。実は直径6~8㎜ほど。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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