南天なんてん

旬のもの 2021.01.05

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こんにちは、俳人の森乃おとです。

新しい年が明け、寒さは厳しさを増しているとはいえ、心なしか太陽の光に春の色が宿りはじめているようです。2020年は、多くの人々にとって経験したことのない試練の年でした。
2021年の幸を願い、「災難を転じて福となす」力があるとされるナンテン(南天)をご紹介したいとおもいます。

厄除け・魔除けの力を持つ樹

ナンテンはメギ科ナンテン属の常緑小低木です。その音が「難転」に通じることから、厄除け、魔除けの効能があるとされ、好んで庭に植えられてきました。植えられる場所は、鬼が出入りする方角とされた「鬼門」(北東)か、その対極にある「裏鬼門」(南西)、「ご不浄」(トイレ)の脇が選ばれました。

また、小さな赤い実が長く厳しい冬の慰めとなるので、前回ご紹介したセンリョウ(千両)やマンリョウ(万両)などと同様、正月の縁起物としても愛されてきました。

センリョウやマンリョウとの見分け方は、まず実のつき方の違い。マンリョウの実は葉の下に隠れたようにつきます。ナンテンはセンリョウと同じく枝先につきますが、センリョウのような塊にはならず、房状に散らばります。

一番大きな違いは葉の形。ナンテンの一枝は、じつは大きな一枚の葉なのです。3回分岐を繰り返して、鳥の羽のように見えるので羽状複葉(うじょうふくよう)といいます。

薬用として中国から渡来

ナンテンはもともと、薬用として平安時代に中国から渡来したといわれます。強い筋弛緩作用があるため、今でも咳止めの「南天のど飴」は広く使われています。殺菌作用もあるので、ナンテンの樹から作られた「南天箸」は高級品とされています。ナンテンに魔除け、厄除けの力があると信じられたのは、単なる語呂合わせからではなく、こうした薬効が基になっていると考えられます。

ナンテンは、中国では「南天竹(なんてんちく)」「南天燭(なんてんしょく)」「南天竺(なんてんじく)」などと呼ばれていました。「南天竹」は姿が竹に似ているため。「南天燭」は、赤い実が蠟燭の火のように見えたからでしょう。「南天竺」の由来はわかりませんが、ちなみに「天竺」とはインドを指した言葉です。

日本の文献にはじめて登場するのは、小倉百人一首の編者・藤原定家の日記『明月記』。鎌倉時代の1230年に、中宮権大夫という官職を持つ貴族が「南天竺」を庭に植えたと記述されています。わざわざ特筆されているので、ナンテンが厄除けの庭木として定着したのはこのころなのでしょう。やがて中国名が簡略化され、「南天」になったと考えられます。

江戸時代には、センリョウやマンリョウなどとともに園芸ブームの対象となり、実が白いシロミナンテンや、若葉の時から葉が赤いオタフクナンテンなど、多くの改良品種が生み出されました。

赤きもの あれば目となる 雪兎    宇多喜代子

みなさんは、「雪兎(ゆきうさぎ)」をつくったことがありますでしょうか。子どもの遊びで、お盆などに雪の塊をのせて固め、目には赤いナンテンの実を、耳にはナンテンやササの葉をつけると、可愛いウサギとなります。ナンテンの代わりに、アオキやセンリョウなどほかの赤い実を使うこともあります。俳人・宇多喜代子さんの句は、そんな郷愁を誘う情景を詠んでいます。

花言葉は「私の愛は増すばかり」「良き家庭」「幸せ」

ナンテンは6~7月頃、6弁の小さな白い花の房をつけます。10月ごろに実は赤く熟し、翌年の春まで残ります。「南天の花」と「花南天」は夏の季語、「南天の実」と「実南天」は冬の季語。ちなみに「雪兎」も冬の季語です。

ナンテンは、ヨーロッパには日本から江戸時代に伝わりました。学名Nandina domesticaの属名は日本語のナンテンがなまったもの、種名は「家庭的な」の意味で、どの家の庭にも植えられていることから付けられました。英名「heavenly bamboo」は「聖なる竹」という意味です。

ナンテンの花言葉は「私の愛は増すばかり」。白い花が赤い実に変わることを、愛情の高まりに例えました。ほかには「良き家庭」、「幸せ」があります。

ナンテンにあやかりまして、2021年がみなさまにとって良き年となりますように。

ナンテン(南天)
中国名 南天竹、南天燭、南天竺
学名 Nandina domestica
英名 heavenly bamboo
メギ科ナンテン属の常緑小低木。高さ1~3m。本州の関東以西、四国、九州と、国外では中国、インドに分布。
初夏に白い花をつけ、秋に実が赤く熟す。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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