こんにちは。俳人の森乃おとです。
風薫る五月。足元に目を向けるとクローバーに似た葉をつけた小さな草が、道端や庭の隅で、静かに株を広げているのに気づきます。葉の間からは可憐な黄色い5弁の花も顔を出しています。見かけは華奢なくせに、たくましい生命力を持つカタバミです。
かたばみや 照りかたまりし 庭の隅 ―俳諧集「続猿蓑」より
カタバミは、カタバミ科カタバミ属の多年草。日本全土の日当たりの良い場所に生育します。春に地下の球根から匍匐茎(ほふくけい)を伸ばし、細い葉柄(ようへい)を密集させてたくさんの葉をつけます。
江戸時代に刊行された俳諧七部集の一つ「続猿蓑」(1698年刊行)に収められた句は、陽射しを集めてこんもりと葉群を茂らせたカタバミの様子をよく表しています。

カタバミという名前は、夜に葉が閉じて、半分になったように見えるからとされます。葉が夜に閉じるのは、水分の蒸発を防ぐためと考えられます。
漢字表記には「酢漿草」「片喰」「傍食」などが使われ、どれも「かたばみ」と読みます。〝酢漿草〟は「酸っぱい汁の草」の意。カタバミは全草にシュウ酸を含むので、かなり酸っぱい味がします。〝片喰〟〝傍食〟は、閉じた葉が半分食べられたように見えることから。
学名はOxalis corniculata(オキザリス・コルニクラータ)。属名は「酸っぱい」という意味のギリシャ語oxysから、種名は「角の生えた」の意。
かたばみ、綾(あや)の紋にてあるも、ことよりはをかし ―清少納言「枕草子」より
カタバミの葉はマメ科のクローバー(シロツメクサ)と同様、3枚の小葉に分かれますが、最大の違いは、クローバーの小葉が単純な円形なのに対し、カタバミの小葉は、中央が凹み、ハート形になっていることです。

デザイン的には、カタバミの葉の方が面白いといえそうです。平安時代の女流作家・清少納言も、「枕草子」の中で「カタバミは綾織物の紋様になっているが、他の草より趣きがある」とその葉の形の美しさを讃えています。
カタバミは、江戸時代の五大家紋の一つ
カタバミは根絶するのが難しい草だといわれます。地下に肥大した塊根(かいこん)を持ち、そこから太くて長い根を伸ばしています。引き抜こうとすると、柔らかい地上部がすぐにちぎれてしまい、根ごと掘り取るのは困難です。根さえ残れば、すぐに再生してしまいます。
根絶が難しいというこの性質が、江戸時代に武家の家紋として人気を博した理由です。武家が一番恐れていたのは、お家が断絶することでしたから。カタバミを図案化した家紋は「片喰(かたばみ)紋」と呼ばれ、五大家紋の一つになりました。

ちなみに、残りの4つの紋は「鷹の羽」「木瓜(もっこう)」「藤」「桐」。木瓜紋は瓜を輪切りにした形とも、鳥の巣をデザインしたものともいわれます。
かたばみの 種に撃たるる 大暑かな ―飯田龍太
カタバミの花期は5~10月。直径8mmほどの黄色い花を長く咲かせ続けます。しみじみと見ると、雑草と言ってしまうのは惜しい美しさです。

実は長さ1.5㎝くらいの円柱状。野菜のオクラの実をうんと小さくしたような姿をしています。片喰紋では、3枚の小葉の隙間を3本の剣に見立てた「剣片喰」が多いのですが、この剣は、実の形をモチーフにしたと思われます。実は熟れると、わずかの振動でも弾け、長さ1mmほどの数十個の赤褐色の種子を勢いよく撒き散らします。

俳人・飯田龍太(1920―2007年)の句は、カタバミの種子に突然顔を撃たれ、驚きと喜びを同時に味わう情景を描いています。
花言葉は「喜び」「輝く心」
私たちがカタバミに対して抱く「地味な雑草」というイメージは、近年急激に変化しつつあります。華やかな園芸種が世界各地から移入され、人気を博しているためです。
外来の園芸種は、花も葉も野生種の何倍も大きく、花の色もピンク、白、黄と実に多様です。学名から名前を取って一括してオキザリスと呼ばれ、日本語名としてはハナカタバミが使われます。花壇から逃げ出し、野生化したオキザリスもあちこちで見かけるようになりました。カタバミの花言葉は「喜び」「輝く心」。「喜び」は、ヨーロッパでは復活祭の時期にこの花が咲くことから。「輝く心」は、金属製の鏡や祭器を磨くのに、シュウ酸を含んだカタバミの茎や葉を使ったことに由来します。

カタバミ(酢漿草、片喰、傍食)
学名Oxalis corniculata(英語名も同じ) カタバミ科カタバミ属の多年草。世界中に分布。花期は5~10月。黄色い小さな花をつける。葉は3枚のハート形の小葉に分かれる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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