すらりと伸びた茎、ぷっくりと膨らむまぁるい蕾。
大きな花が開くと、まわりがパッと明るくなるような華やかさで満たされる。
まるで美人がそこにいるかのような、佇まい。
芍薬は5月頃に咲く、ボタン科ボタン属の多年草でアジア原産の植物です。
長く伸びた茎から牡丹によく似た10cmくらいの大きな花をつけます。花の色は赤やピンク、白、黄色などがあり、花の形は一重咲き、八重咲き、翁咲きなどの種類があります。
早朝に開き、夕方には花びらを早々に閉じるという特徴があります。
芍薬はもともと漢方薬の原料として中国から朝鮮を経由して日本に渡ってきました。現在でも根を乾燥させたものが生薬として使われており、漢方では、鎮静・鎮痛、抗炎症などの作用があることから、葛根湯をはじめ多くの漢方薬に配合されています。
江戸時代には「茶花」として観賞用で広まり、現代では結婚式のブーケなどで会場を彩ったり、女性への贈り物にしたりして親しまれています。
さて、芍薬といえばこんなことわざが有名です。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
これは美人を形容したことわざで、美しい女性の立ち居振る舞いを例えたもの。
芍薬はすらりとした茎の先に花を咲かせることから立ち姿の女性、
牡丹は枝分かれして広く横に花を咲かせることから落ち着きのある座った女性、
百合は風に揺れる姿が美しいことから歩く女性を表している、といわれています。
しかし、このことわざはもともと生薬の用い方を表現した言葉からきています。
「立てば」・・イライラし、気の立っている女性を鎮めるために芍薬の根を用いて、気の流れをよくする。
「座れば」・・座ってばかりで血液の流れが滞った女性を改善するために牡丹の根の皮の部分を用いて、血流をよくする。
「歩く姿」・・心身症でフラフラと歩く女性を支えるために百合の根を用いて、不安や不眠、動悸を改善する。
昔から芍薬が、女性の心と身体の健康を支えてきたのだということが、このことわざからも分かりますね。
さて、この原稿を書いている私の側にも芍薬がいます。
この芍薬は最近、近所の市場で買ってきました。
蕾の状態でお迎えしてからもう1週間ほど経ちますが、実はまだこの写真の通り、咲いていません。
蕾を優しくほぐすと咲きやすくなるそうで、毎日おそるおそる触れながら、「がんばれ」と心の中でエールを送り続けています。
最終的に咲いてくれるかどうかは分かりませんが、花開かなかったとしても、こうやって一緒に過ごした時間はきっと忘れないだろうと思います。
芍薬のささいな変化を観察しながら、楽しむひととき。
蕾から出る蜜を拭き取ったり、葉っぱの色の変化を見ながら水を入れ替えたり。
せわしない毎日の中で、一瞬だけれどこの芍薬と向き合う時間が自分を取り戻す、心を動かすきっかけをつくってくれます。
それはまるで、私の心境の変化を映し出しているかのように感じることもあります。
我が家の美人さんに今年は振り向いてもらえないかもしれませんが、楽しみはまた来年にとっておいて。今この瞬間を楽しみたい、楽しめる自分でありたいなと思います。
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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