ヒルガオ

旬のもの 2021.06.23

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こんにちは、俳人の森乃おとです。

6月に入り、雨雲の切れ間から太陽の光が射し込む空き地や道端で、可愛らしいピンクのヒルガオ(昼顔)が花を開いているのに出会います。雨はまだ降りやみませんが、やがて来る夏の美しさを約束してくれるような、そんな愛すべき雑草です。

「雨降り花」という別名も

ちょうど梅雨の季節に咲き、「雨降り花」と呼ばれる一群の植物があります。その花を摘むと雨が降るという言い伝えを持ち、ヒルガオはその代表格。ほかにはホタルブクロやツユクサ、クチナシなどがあります。俳句では「昼顔の 露に踏み入る 二歩三歩」という昭和の俳人・藤田湘子(ふじた・しょうし)の一句が有名で、ヒルガオの花に降りかかる雨露の風情を詠んでいます。

ヒルガオは日本原産のヒルガオ科ヒルガオ属のつる性植物です。北海道から九州までの日本全国と、朝鮮半島、中国に自生。ほとんど種子は作らず、地上部は冬に枯れますが、地中に張り巡らせた太くて白い根茎から、春先にいち早くつるを出してほかの植物に盛んに巻きつきます。色は薄いピンクで、花径5~6㎝。長さ10㎝ほどの細長い三角形の葉を持ちます。

同属のコヒルガオも日本全国に分布。花径は3~4㎝と小さく、葉の両端が鉾(ほこ)のように張り出しているので見分けられます。また、海岸地帯の砂浜には、葉が円く、艶がある海浜植物のハマヒルガオも見られます。江戸時代の俳人・小林一茶の句「大汐や 昼顔砂に しがみつき」はハマヒルガオを詠んだものでしょう。

ハマヒルガオ

万葉の時代から「容花/顔花(かおばな)」として人気

ヒルガオは、5弁の花びらが1つに合わさり、円い鏡のようになっています。のぞき込むと愛しい人の面影が見えるような気がすることから、万葉の時代から「容花/顔花(かおばな)」と呼ばれ、愛されてきました。

「高円(たかまど)の 野辺の容花(かおばな) おもかげに 見えつつ妹(いも)は 忘れかねつも」(万葉集巻八)

万葉歌人・大伴家持(おおとものやかもち)が一族の女性長老・坂上郎女(さかのうえのいらつめ)に贈った歌で、「高円山の麓の野辺に咲いているヒルガオの花に、あなたの面影が見えて忘れられない」という情愛を詠っています。

アサガオとの対比でヒルガオという名前に

遣唐使によって中国から近縁種のアサガオ(朝顔・ヒルガオ科サツマイモ属)がもたらされると、カオバナの座はより華やかなアサガオに奪われます。「朝顔」とは「朝に咲くカオバナ」の意とされ、午後も咲いているヒルガオは「昼に咲くカオバナ」として「昼顔」という名前を与えられます。夕方に咲くので、「ユウガオ(夕顔)」と名づけられたカオバナもありましたが、こちらはウリ科の植物で類縁関係はありません。白い清楚な花で、大きな実はカンピョウの原料になります。

アサガオ

また、明治時代にはヒルガオ科サツマイモ属のヨルガオ(夜顔)が観賞用に渡来し、カオバナに加わりました。

花言葉は「絆」「優しい愛情」「情事」

ヒルガオの花言葉は「絆」「優しい愛情」、そして「情事」です。

1967年にフランス・イタリア合作映画「昼顔」(カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ルイス・ブニュエル監督)が作られ、世界に衝撃を与えました。裕福な医師の妻が、「昼顔」という名前で高級娼婦として働くようになるというストーリーで、日本でもこの映画に着想を得たドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」が2014年に放映され、人気となりました。

ヨーロッパには、近縁種のセイヨウヒルガオが生育しています。ヒルガオによく似ていますが花が一回り小ぶり。日本のヒルガオは緑色の苞(ほう)が大きく蕚(がく)を包んでいますが、セイヨウヒルガオの苞は小さくて、花柄の途中についていることで、区別ができます。 この花がほかの植物に絡みついて優しげに咲いている情景が、どこか危うい恋情を感じさせるのかもしれません。

セイヨウヒルガオ

ところでヒルガオは、若い芽も花も根茎も、全草が食べられる薬草でもあります。味はクウシンサイ(空心菜)に似て、お浸しやテンプラにすると美味しくいただけます。ちなみにクウシンサイはヒルガオの近縁種で、アサガオと同じヒルガオ科サツマイモ属です。

ヒルガオ(昼顔)

学名Calystegia japonica 英名False bindweed   日本、朝鮮半島、中国に自生するつる性植物。ほとんど種子を作らず、根茎で増える。花期は6~8月。花の色は薄いピンク。英名のFalse bindweedは"偽のヒルガオ″の意。セイヨウヒルガオとの対比で名づけられた。別名は「雨降り花」。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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