7月。海は青いきらめきを見せるようになり、畑の緑は力強く、見かける花々の色彩も鮮やかになってきました。本格的な夏に向けて、目に映るものの彩度が高まっていくのを感じます。
こんにちは。僧侶でライターの小島杏子です。
本日は、夏野菜の勢い増す7月の畑から、「サヤインゲン」をテーマに取り上げたいと思います。みなさんはサヤインゲンをどのようにして食べるのが好きですか?
私は鶏肉とあえて食べるのが好きです。グリルで焼いた(もしくは茹でたり、蒸したりしても良いと思います)鶏もも肉をほどよく割いたものに、さっとゆがいたサヤインゲンを食べやすい大きさに切ってあわせ、マヨネーズとわさびと炒った白胡麻と一緒に混ぜた料理です。我が家では、鶏肉が余った次の日などによく登場する小鉢です。

ご存知のように、サヤインゲンは一般的に若いサヤ(未熟果)をそのまま食する豆類です。マメ科、蔓性の一年草で、白や黄、淡い紅色の花をつけます。ゴガツササゲ(五月ささげ)、サンドマメ(三度豆)とも呼ばれます。
原産地はメキシコ中部からグアテマラ、ホンジュラスなど中央アメリカ地域。16世紀ごろスペインに伝わり、まもなくヨーロッパ全土で食べられるようになりました。日本へは17世紀に中国から伝えられたと言われています。

明の禅僧、隠元禅師が持ち込んだことから「インゲン」という名がついたとも言われますが、隠元禅師が日本にもたらした豆はサヤインゲンではなくフジマメではないかと現在では考えられています。しかし、これには他にも根強い説があるのです。それは、隠元禅師は日本に2種類の豆を持ち込み、関東にはサヤインゲンを、関西にはフジマメを広めたのではないかという説です。
実際に、関西地方ではフジマメのことをインゲンマメと呼ぶ習わしがあるらしいです。では当のサヤインゲンの方はどんな名前で呼ばれているかというと、さきほどご紹介したゴガツササゲやサンドマメなど異名の方で呼ぶのだとか。そんなお話を読んでいると、隠元禅師が2種類の豆を持ち込んだという説にも興味が出てきます。

この文章をご覧の関西在住の方がいらっしゃったら、実際にサヤインゲンをなんと呼んでいるのか教えていただけると嬉しいです。私も8年間京都に住んでいたはずなのに、なぜか思い出すことができません。
サヤインゲンもしくはフジマメ、あるいは2つともを日本にもたらしたと言われる隠元禅師ですが、現在の中国・福建省に生まれた禅の高僧です。承応3年(1654年)、長崎の興福寺の求めに応じて日本に渡り、宇治の黄檗山萬福寺開創など日本仏教史を語るに欠かすことのできない功績を残す人物です。
隠元禅師とともに日本に渡った弟子、鉄眼は大蔵経(漢訳された仏教聖典の総称)の出版を目指して印刷所を設立、鉄眼版大蔵経の出版を成しました。その際使用された字体が、現在でいう「明朝体」の源流ではないかと言われています。

自分の食卓にあるサヤインゲンというお豆さんは一体どこから来たのだろうかと思い巡らすだけで、こんなに壮大な歴史があるなんて驚いてしまいます。サヤインゲンに限らず、あらゆるものには歴史があり、ルーツがあるのは、考えてみれば当たり前のことなのに。
もちろん何百年も昔に遡って、誰がどうしたとか、何がどうなったなんて事実を正確に知るのは難しいことです。けれど、自分の生活に関わるものや人、自分自身も含めたあらゆるものにはルーツがあり、その連なりの一番先っぽに今自分がいるのだと思うと、あまりの途方もなさにぼんやりしてしまいます。
自分の物差しを遥かに超えた何かを目の当たりにしてぼんやりしてしまうのは、私は良いことだと思います。自分の物差しなんて完璧じゃないんだし、ほどほどでいいのだと思えてくるから。
あまりに色々なことにこだわり過ぎてしんどくなってしまう時には、特におすすめです。みなさんも、サヤインゲンを食べるときには、その豆の歴史に思いを馳せつつ、ぼんやりしてみてください。


小島杏子
僧侶・ライター
広島県尾道市出身。冬の風景が好きだけど、寒いのは苦手なので、暖かい部屋のなかから寒そうな外を眺めていたい。好きなのは、アイスランド、ウイスキー、本と猫、海辺。
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