コアジサシ

旬のもの 2021.07.25

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

例年、7月末にもなると梅雨が明け、いよいよ本格的な夏がやってきますね。さて、突然ですが、夏空が似合う鳥といったら、みなさんはどんな種類を思い浮かべますか? 

私は、水鳥のアジサシかなと思います。
夏の強烈な日差しを浴びてキラキラと白く輝きながら飛ぶ姿は、白い入道雲と青空に映えて美しく、夏空にぴったりな感じがするのです。

そんなアジサシですが、アジサシと名がつく鳥は世界で41種もいます。そのうちの17種が日本で見られ、多くが沖縄や小笠原などの南の島にいるトロピカルバードです。それ以外は、渡りの途中に立ち寄ったり、ごく希に現れたりする鳥ですが、唯一コアジサシだけは、夏鳥として本州、四国、九州、沖縄に渡ってきて子育てをする身近なアジサシ類です。

コアジサシはカモメのなかまの水鳥で、大きさは28cm。鋭く尖った黄色い嘴が特徴です。越冬地のオーストラリアから日本にやって来るのはだいたい4月ごろで、潮風が気持ちよく感じられる季節になると姿を見せます。

主な食べものは小魚です。空中でホバリングしながら狙いを定め、水中にダイビングして魚を捕らえます。その様子が、あたかも魚のアジを鋭い嘴で突き刺すように見えることから、アジサシという名前がついたと言われています。でも、とくにアジを好んで食べるわけではありません。

5~7月下旬にかけてが子育てのシーズン。その繁殖の様子は普通の鳥とはちょっと違い、巣は河原や砂浜などの小石がたくさんある地面に少し穴を掘って作り、そこにゴロンと卵を産むだけなんです。いくら何でも無防備すぎるんじゃない?と心配になりますが、卵の色や模様が小石そっくりにカモフラージュされているので、卵を狙う天敵から見つかりにくくなっています。でも、それだけだとさすがに心細いので、コアジサシたちは大集団で営巣し、数の力で敵を追い払う作戦で子育てをします。大きな営巣地になると1000羽以上にもなり、天敵であるカラスが接近すると大集団でアタックして防衛するのです。

写真提供:柴田佳秀

コアジサシの営巣地として、最も適しているのは石ころだらけの川の中州です。ところが、現在の日本ではこんな中州が少なくなってしまい、そのかわりに工事中の造成地で営巣するケースがほとんどです。当然のことながら造成地は建物ができてしまうため、やがて消えゆく運命です。また、繁殖する鳥の数が少ない場合が多くて、数による防衛力が発揮できず、天敵に全滅させられてしまうことが頻繁に起きます。こんな具合に、現在のコアジサシは極めて厳しい状況で、環境省の絶滅危惧種に指定されるまで数が少なくなっています。

このままではコアジサシが日本の空から消えてしまうのではないかと心配になりますが、ただ黙って見ているわけではありません。たとえば、東京都大田区にある森ヶ崎水再生センターの屋上には、コアジサシが繁殖できるように人工的に整備された営巣地があり、これまで多い年には800巣以上も繁殖し、数多くのヒナが巣立っています。ただ、毎年必ずうまくいくわけではなく、ほとんど繁殖に成功しない年もあり、なかなか厳しい現実もあります。でも、あきらめずに、私たちが知恵を出し合うことで、この美しい鳥が幻にならないようにしなければなりません。
いつまでも夏空が似合う美しい姿を見たいですからね。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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