こんにちは。俳人の森乃おとです。
8月の灼けつくような日差しの下で、フェンスやほかの樹に巻きついたつる草が、小さな白い花を咲かせています。ラッパ型の花の先端は5つに裂けて反り返り、内側は鮮やかな紅紫色。愛らしく清楚な花ですが、なんと名前はヘクソカズラ(屁糞葛)。
かわいそうな名の植物ランキングでは「ワルナスビ(悪茄子)」「オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)」「ハキダメギク(掃溜菊)」などが挙げられますが、「ヘクソカズラ」はそのトップに立つかもしれません。

英語名は「スカンクのつる草」
ヘクソカズラはアカネ科ヘクソカズラ属のつる性多年生植物。日本全土と東アジアに分布します。春先に地下茎から出たつるは、何にでも手当たり次第に巻きつき這い上り、高さ10mに達することも。
花期は7~9月。葉の腋(わき)ごとに長さ約1㎝の複数の小花をつけます。実はまん丸で直径5mmほど。はじめは緑色ですが、熟すと黄褐色に変わります。

学名の「Paederia scandens」は「悪臭がする這う草」で、英語名の「Skunk vine」は「スカンクのつる草」の意味。和名と同様、「臭い」ということがキーポイントになっています。
ヘクソカズラが臭うのは、動物のオナラやフンの悪臭成分である「メチルメルカプタン」を含むから。嫌な臭いで昆虫を遠ざけ、食べられるのを防ぐためと考えられています。
実際に花や葉をもんでみると、確かに強い臭いがしますが、「耐え難い」というほどではありません。「錆びた金属のような臭い」と表現する人もいます。臭いの成分は揮発(きはつ)性なので、やがて薄れていきます。

(注)そう莢=マメ科の落葉高木。鋭いトゲを持つサイカチのこと
(注)おぼとる=乱れ広がる。ヘクソカズラがサイカチにまとわりつく様子を表現
ヘクソカズラの名は古く、奈良時代に編まれた万葉集にはクソカズラ(屎葛)として登場します。歌意は次のとおり。
作者の高宮王(たかみやのおおきみ)は、奈良時代の歌人・宮廷人。生没年は不明。名前からすると王族の一員なのでしょうが、身分はそれほど高くはなかったようで、系譜も伝わっていません。1200年以上の時を経ながら、ヘクソカズラに託された勤め人の哀歓としたたかな気合いが伝わってきて、不思議な共感を呼び起こします。

別名は「ヤイトバナ(灸草)」「サオトメバナ(早乙女花)」
臭いのことは別にして、白に紅紫を配したヘクソカズラの花の魅力は、広く認められていました。歌人・国文学者の尾山篤二郎(おやま・とくじろう/1889~1963)は、
秋されば へくそかずらの花にさへ うすくれなゐの いろさしにけり
と、この花の美しさを称えた短歌を詠んでいます。
灸花(やいとばな) こころひとつが 昏れゐたる
俳人の河原枇杷男(かわはら・びわお/1930~)の句。「灸花」はヘクソカズラの別名で、花の内側の紅紫をお灸(やいと)の痕に見立てたもの。俳句の世界では夏の季語です。
また、田植えをする早乙女が被る花笠を連想させることから、サオトメバナという可憐な名前もあります。

花言葉は「人嫌い」「誤解を解きたい」「意外性のある」
ヘクソカズラの花言葉は、まずは「人嫌い」。人を寄せつけないように、悪い臭いを立てているという解釈からです。「誤解を解きたい」には、自分にも美点があることを知ってもらいたいという切なる思いが込められています。
「意外性のある」は、悪臭と可愛らしい花とのギャップから。秋に熟す黄褐色の小さな実は乾燥させると無臭になり、リースの花材としての人気が高まっています。
また薬用植物でもあり、全草および根に薬効があります。実の絞り汁から化粧水を作ったり、ハンドクリームに混ぜたりして、あかぎれなどの外用薬として用いられます。

ヘクソカズラ(屁糞葛)
学名Paederia scandens 英名Skunk vine アカネ科ヘクソカズラ属の蔓性多年生植物。日本全土と東アジアに生育。花期は7~9月。対生の葉の腋(わき)に数個の小花をつける。花はラッパ型で、先端は5裂。花の色は白、中央部は紅紫。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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