アオバト

旬のもの 2021.08.19

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

夏といえばやっぱり海ですね!
私の子ども時代は昭和でしたから、夏休みといえば家族で海へ行くと決まっていました。その当時は、海水浴が一大イベントだったので、シーズンになると東京駅の伊豆方面へ向かう列車が出発するホームは乗客でごったがえしていました。急行列車の指定席は満席で、自由席を確保するのに苦労した思い出があります。それも今になってみればいい思い出の1シーンです。

鳥のなかにも、夏になると海へ行くものがいます。それが今回紹介するアオバトです。ハトというと、公園で群れている灰色のドバトを連想し、きれいな鳥というイメージはあまりないかもしれません。でも、アオバトは全身が緑色のじつに美しい鳥。こんなきれいなハトが日本にもいるんです。

オス
メス

大きさは33cm。雌雄共に全身が緑色ですが、オスは翼が紫色でより美しさが増す感じがします。森にすむハトで、果実やドングリが主食です。北海道から九州までの全国の広葉樹林に生息しますが、北海道や東北では、冬には果実がなくなるため姿がみられなくなります。きっと南の森へ移動しているのでしょう。

オス(右)とメス(左)

アオバトには、海水を飲むとても珍しい習性があります。この行動が見られるのは、5~9月にかけて、特に真夏の7~8月は多くの鳥が海水を飲みに海岸に現れます。海水を飲む場所は全国で何カ所か知られており、なかでも神奈川県大磯町の磯は、たくさんのアオバトが訪れる貴重な場所として神奈川県の天然記念物に指定されています。

アオバトは、ふだんは海岸から遠く離れた山の森に棲んでいます。それなのに毎日のように何十㎞もの距離を飛んで来て海水を飲むのです。朝を中心に数羽~数十羽の群れが次々と飛来しては、磯に降りて海水を飲み、また森に帰っていきます。その数は多い日だと3000羽にもなるそうです。たとえ海が荒れても海水を飲むことをやめません。ときには波にのまれて死んでしまう鳥もいて、まさに命がけの行動なのですが、そこまでして海水を飲む理由はなんでしょう。

じつは、はっきりとした理由はまだ解明されていないんです。現在の有力な説は、果実を専門に食べるために不足するナトリウムを海水からとる必要があるからというもの。春から夏にかけて、アオバトはヤマザクラやノブドウといった水分の多い果実ばかりを食べています。これらの食べものにはカリウムは含まれていますが、ナトリウムは含まれていません。どちらも体内にないと水分や栄養を血中に取り込むことができないので、不足しているナトリウムを海水から得ているのだというのです。

アオバトが飲むのは海水だけではありません。山の温泉水も飲むのです。どんな温泉でもよいわけではなく、ナトリウム泉に限られるので、やはりアオバトはナトリウム目当てに、海水や温泉水を飲むのは間違いないのでしょう。全国には「鳩の湯」などのハトの名がついた温泉が何カ所かあります。きっと昔の人が山の中で偶然、アオバトが飲んでいるのを見て、温泉の存在を知ったのではないかと私は思うのです。それにしてもアオバトのナトリウム探査能力の高さには驚かされます。いったいどんなスーパーセンスがあるのか、とても不思議です。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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