熱を逃すスイカとトマト

旬のもの 2021.08.20

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暑い日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
暦の上では秋へと向かう時期となっていますが、まだまだ暑いですよね。さて、これだけ暑いとついついアイスやかき氷、アイスコーヒーにアイスラテなど、冷たいものにどうしても手が伸びてしまいがちですね。食事も素麺に冷やし中華など、冷たくてのどごしがよいものを求めてしまいます。よくわかります。私ももちろんそうです。

冷たいものをたくさんとっていると、下痢や軟便はもちろん、体のだるさ、重さ、食欲の低下、そしてどんどん元気がなくなっていきます。ようするに夏バテ状態となります。かといって、冷たいものを一切取らずに、暑さを耐えるというのも、それもまた不健康ですよね。

では効果的にこもった熱をとるにはどうしたらいいのでしょう。

中医学で夏の邪気を、暑邪(しょじゃ)といいます。邪気とは、体に悪影響を及ぼす気候変化ですが、暑邪は読んで字のごとく、暑さの邪気です。暑邪は、上へ上へと向かって燃え上がる炎のような性質を持っています。暑邪にやられると、ほてりやのぼせ、咽の乾きに吐き気といった症状に見舞われます。ちょうど熱中症や日射病が暑邪にやられた状態です。

中医学では、五臓の心と小腸が暑邪に弱いとされています。五臓の心は、心臓や血管といった循環器系の内臓や器官による働きに加えて、精神も宿していると考えられています。不調になると、動悸や息切れのほか、イライラや不眠なども引き起こすようになります。また小腸は消化器系の働き以外にも免疫系にも関与するため、小腸が弱ると、夏風邪や皮膚トラブルの一因にもなります。

そんな暑邪に侵されたこもった熱をさます処方に白虎湯(びゃっことう)という処方があります。内容成分は、石膏、知母 (ちも) 、粳米、甘草です。石膏とは、美術館などにある石膏像の石膏です。医療用ではギプスにもつかわれ、黒板用のチョーク、そして建築資材にもなります。この石膏、豆腐の凝固剤やビールの添加物としても使われる、食べても大丈夫な鉱物ですが、石膏には強烈に熱を冷ます力があります。その石膏を主体として、ハナスゲの草の根からできる同じく熱を冷まして潤いを補う知母、粳米は、うるち米、要するにお米です。粳米は潤いを補い元気を補います。そして諸薬の調和をとるための甘草が配合された比較的シンプルな処方です。

この白虎湯が熱中症にはよく使われるのですが、実は『天然の白虎湯』の異名を持つ果物/野菜があるんです。それが今回の主役、スイカです。

スイカは寒性で、心や胃、膀胱に作用し、こもった熱を冷まし潤いを補うと同時に、不要な水分を排出してくれる優れた果物/野菜です。暑気あたり、手足のほてり、むくみ、口内炎、そして二日酔いにも良いとされています。白虎湯の石膏や知母は一般的には簡単に手には入りませんが、スイカなら日本全国どこでも手に入ることでしょう。スイカをしっかり食べて、この暑い日々を乗り切って欲しいものです。

ただし、冷やす作用がとても強いのでお腹が冷えて下痢をしているような方には不向きです。妊婦さんもたくさん食べるとお腹を冷やしてしまうので注意しましょう。冷蔵庫でキンキンに冷やしたまま食べるようなことはせず、少し室温で戻してから食べるようにしてくださいね。

スイカがアレルギーで食べられないという人には、トマトも良いでしょう。トマトにもこもった熱を冷ましてくれる作用が十分にあります。トマトは更に、胃腸を整えて、イライラを落ち着けてくれるので、不眠やイライラが強い人はトマトのほうがおすすめです。

暦というのは太陽の動きを基準にしていますから、それが地表に影響を及ぼすまでには、少しタイムラグがあります。実際地表が秋に向かい始めるのは、9月後半から10月頃。約1ヶ月半ぐらいのズレがあるとおもっておくのが良いと思います。ただし、暦を基本に養生を考えておくというのは、先々の気候変化を見据えて体調を整えておくこととなるので、きっと役立つはずです。

二十四節気や四季の移ろいを感じながら、季節の食べものを食べて、日々の健康に役立ててくださいね。

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櫻井大典

国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。

櫻井大典|ゆるかんぽう

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