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こんにちは。料理人の庄本彩美です。今日は皆大好き!カレーについてのお話です。

「日本の国民食」とも言われるカレー。人にはそれぞれ、カレーにまつわる思い出があるのではないだろうか。

私の母の作るカレーは西日本らしく牛肉で、畑の野菜がたっぷり入った甘口のカレーだった。定期的にカレーの日があった学校給食では、おかわりしたかったけれど、恥ずかしくてできなかった思い出がある。
野外学習の際、班で手分けして、子どもたちだけで作り上げたカレーには、この上ない美味しさと達成感が溢れていた。スパイスを調合して作った自分だけのカレーには、料理の奥深さと探究心をくすぐられた。
明治時代にイギリスから日本に伝わってきて以来、今日まで幅広い世代に人気の食べ物だ。

写真提供:庄本彩美

カレーが多くの人に愛される理由は、様々述べられているが、ひとつにアレンジの多さという懐の深さにあるだろう。

カレーといってもその定義には幅があるため、思い浮かべる姿はそれぞれ違う可能性が高い。具材に始まり、ルーやスパイスの加減も自由、隠し味の材料も多岐に渡る。サラサラか、ドロドロのカレーなのか、はたまたドライにするのか。そしてベースの味のバリエーションも様々だ。
更にカレーうどん、カレーパン、カレードリアなど、カレーは何かと他の料理と合わせる事ができる。
このようにカレーの形には正解がない。各々が目指す味に向かって、自由に作って良いのだ。

私がカレーに対して特別な思いを持つようになったのは、数年前の「夏至カレー大使」との出会いによる。
彼女は開口一番、自分は「夏至カレー大使」だと名乗り、夏至の日にカレーを食べ続けていると話した。これをひたすら10年も続けてきたという。なんとも地道な活動である。
冬至には柚子風呂や南瓜を食べる等の行事があるが、彼女が大好きな、一年で一番日が長い夏至を祝うための、これ!という定番の行事を見つけられなかったため、自分が一番好きな「カレー」を「夏至」の日に食べることにしたそうだ。彼女はこれを「夏至カレー」と名付けたと言う。

写真提供:寺田和代

「なんと面白い活動!」と思った私は、賛同してくれた友人らと夏至カレーイベントを行った。SNSで声をかけ、沢山の参加者と共に夏至のカレーを楽しんだ。コロナ禍でイベントが出来なくても、それぞれの場所で夏至という同じ日に、各々の好きなカレーを楽しむ様子がSNSで盛り上がりをみせた。夏至カレーフラッグを自作してカレーに立てて食べる人、たまたまカレーを食べたよ!と写真を投稿する人、仕事帰りに他の人の投稿を見て「今日はカレーを食べる日なの?」とコンビニでカレーパンを買った人。多種多様な夏至カレーがあった。
彼女のたゆみない努力と、夏至カレーを楽しむ全国の参加者の投稿によって、ここ数年は夏至の日には、Twitterのトレンドに「♯夏至カレー」が急上昇ワードにのぼる程だ。

日本には、季節の節目と共に食事を楽しむ「行事食」が多くある。行事食は、家族の健康や幸せを願うために行うといわれている。「夏至カレー」の魅力は、家族や友人と一緒にカレーを楽しむだけでなく、自分の好きなカレーを食べながら「同じ空の下で、誰かもまた好きなカレーを食べている」とふと思える事にあると思う。この時、行事食に込められた本来の意味を、私たちは何となく感じているのではないだろうか。

是非、来年の夏至は各々の夏至カレーで新たなカレーの思い出を作って楽しんで欲しい。カレーが嫌いな人も、「あっ、今日夏至カレーの日じゃん」と思い出してもらえたらそれでいい。
その時既に、私たちはみな、カレーの大きな包容力に包まれているのだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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