こんにちは。俳人の森乃おとです。
残暑の光の中で、花期を迎えたエノコログサ(狗尾草)が、道端やちょっとした空き地などで風に揺らめいています。折り取ってしばらく遊び、いつの間にかどこかに置き忘れてしまっている――。そんな子どもの頃の記憶が、夏の匂いと共によみがえってきます。エノコログサは私たちにとって、一番身近な雑草であり、親しまれている雑草かもしれません。

江戸時代の俳人、小林一茶の一句です。エノコログサは俳句の世界では秋の季語。草花や小さな生き物への愛情が込められた、一茶らしい優しい句です。
エノコログサという名前は、ふさふさした花穂が子犬の尻尾のように見えるため。「イヌコロ草」と呼ぶうちに、「イ」が「エ」になまって変化し、「エノコロ草」になったと考えられています。

中国名は「狗尾草」で、「狗(犬)の尾のような草」という意味。英語名もFox tail grass(キツネの尾のような草)で、やはり動物の尾を連想させることは共通しています。
よく知られている別名は「ネコジャラシ(猫じゃらし)」。子猫の視界内でエノコログサの花穂を揺り動かすと、獲物と思った子猫は我慢できずにとびかかってきます。「ネコダマシ(猫騙し)」と呼ぶ地方もあります。
エノコログサはアワの祖先
エノコログサはイネ科エノコログサ属の一年草で、ユーラシア大陸原産。草丈は30~70㎝ほど。6~9月に茎の先に長さ3~6㎝ほどの花穂をつけます。一つの穂には300~800個の実があり、その基部から細長い剛毛がたくさん生えているため、ブラシのような、あるいは犬やキツネの尻尾のような印象を与えます。学名の「Setaria viridis」は「緑色の剛毛のある」という意味です。

ところで、エノコログサの熟した実は、小さいけれども丸々としていて、なんだか美味しそうに見えませんか? それもそのはず、エノコログサは米や麦と並んで五穀の一つとされる粟(アワ)の原種です。日本には縄文時代前期に、アワの栽培に伴って、畑の雑草として渡来しました。
アワと同様、エノコログサも食べることができます。試しにフライパンで空炒りすると、パチパチと実がはじけ、口に入れてもエグ味はありません。現在、アワは小鳥の餌や、和菓子の粟餅ぐらいでしか知られていませんが、戦前は重要な食糧資源でした。
エノコログサの仲間
エノコログサは交雑しやすいので、さまざまな変種を見つけて楽しむことができます。
アキノエノコログサはエノコログサよりも全体的に大型で、名前の通り花期がやや遅く10月ごろまで。エノコログサは9月には終わりますので、10月過ぎても咲いているのはアキノエノコログサです。また、エノコログサの花穂は直立しているのに対し、アキノエノコログサは花穂が長く、ゆるやかに湾曲して垂れ下がります。

都会では、アキノエノコログサの方が多く見かけられます。戦前にアメリカに渡り、再び日本に帰化してきたものは、草丈が1mを超えることも。
海岸地帯に生えるものはハマエノコログサ。背丈が小さいことが特徴です。
毛が金色に輝いていれば、キンエノコログサ。鮮やかな紫色のムラサキエノコログサもあります。
花言葉は「遊び」と「愛嬌」
エノコログサの花言葉は、「遊び」と「愛嬌」。
「遊び」は、ネコジャラシと無邪気に戯れる子猫の姿が浮かんできます。またネコジャラシは毛虫にも似ているので、いたずらで友人の肩に置いて驚かせたこともありました。そしてネコジャラシの前で首をかしげる子猫の顔は可愛らしく、まさに「愛嬌」に満ちています。

星野麥丘人(ほしの・ばくきゅうじん/1925-2013)の句。気取りや飾り気を排し、雑草のように一庶民として生きるという、強い意志が伝わってきます。

エノコログサ(狗尾草)
学名Setaria viridis 英名Green bristlegrass, Fox tail grass イネ科エノコログサ属の一年草。ユーラシア大陸原産で、日本には縄文時代に渡来。主要穀物であるアワ(粟)の祖先種。花期は6~9月。別名ネコジャラシ。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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