うり

旬のもの 2021.08.29

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漬物男子、田中友規です。
今日は瓜のお話なのですが、みなさんがぱっと頭に浮かぶ瓜はどんな野菜でしょう?

うり、うり、うり・・・と考え始めてみると、西瓜(すいか)、胡瓜(きゅうり)、南瓜(かぼちゃ)、冬瓜(とうがん)、苦瓜(にがうり)、糸瓜(へちま)、けっこう身近にあるものですね。

瓜は千年以上前から漬物として食されていたようで、「延喜式」という平安時代に編纂された書物にも登場しています。

そんな、日本人と長い付き合いの瓜ですが、「今日の晩御飯は瓜料理にしよう」とはならないのが不思議です。一体、瓜はどこへいってしまったのでしょうか。

平安時代の瓜にまつわる逸話を調べているうちに、八坂神社の隣、知恩院に「瓜生石(うりゅうせき)」という石があることを知りました。瓜が生える石・・・いったいどういう事だろうか。
どうやら「知恩院の七不思議」と呼ばれる、奇妙な言い伝えのうちの一つだというのです。

今回も気になってしまったからには即現地へ。少し雨の残る東山へ向かいました。

黒門

知恩院は東山の華頂山の麓にある、法然上人が開いた浄土宗の総本山。
国宝に指定された幅50メートルの巨大な三門を横目に、北側に位置する黒門まで歩きます。
するとアスファルト舗装された道路の真ん中に、不自然な柵に囲われた一角を発見。
なんとも地味な石碑!しかしその言い伝えにはこう書いてあります。

黒門と瓜生石

「八坂神社の牛頭天王(ごずてんのう)がこの巨石に降臨し、一夜のうちに瓜が生えて実った。」
牛頭天王は八坂神社の主祭神で、スサノオノミコトの事。古事記まで遡った伝説のわりに、この扱いとは・・・!

どうしてこの場所に瓜が一夜にして実ったのか、その実は誰か食べたのだろうか。さらに巨石の下には二条城へ繋がる隠し通路があるとか、ないとか。あまりに情報が不足しており理解が追いつきませんが、説明不能なこの逸話こそ七不思議と呼ぶにふさわしく、京都の奥深さを感じます。

瓜生石

あとの六つの不思議もなかなかに興味深いのですが、みなさんが知恩院に訪れたときの楽しみに取っておきましょう。

さて瓜の伝説に触れたあとは、やはり美味しい瓜が食べたくなるわけで、近くに瓜を扱う店はないかと探してみると、やはりありました。
創業200年超の田中長奈良漬店。瓜を酒粕に漬け込み、2年以上熟成発酵させた都錦味醂漬は、
他所にはない、深みのあるほろ苦さを感じる甘味が特徴です。

田中長奈良漬店

そうか、瓜は奈良漬にするのが一番。だから一般家庭で瓜料理は進化しなかったのですね。
一人で勝手に納得しながら店内を物色していると「奈良漬バターサンド」なるものを発見。
北の大地の有名なお土産品のアレのイメージに瓜二つなのだけれど、これは気になります。

店主に「バターサンドありますか?」と尋ねたが、午前中でウリ切れ。
オンラインでも1ヶ月待ちだそうだ。今年5月に発売開始してすぐ、メディアで紹介された途端に
ずっとこの調子だそう。
「明日の朝8時30分にきてもらえればいくつか入荷しますし・・・」

そう言われては仕方ない。明日も来ます、と店主に伝え、
今日のところは期間限定発売の桂ウリの奈良漬と、スタンダードな白ウリの奈良漬を買い、
帰路につきました。

桂ウリ
桂ウリと白ウリ

2種類を食べ比べてみると、桂ウリはしっとりとした食感を残した歯応え。
白ウリはパリパリの食感が楽しめます。
子どもの頃はこの独特の香りを好きになれませんでしたが、いまとなっては大好物。
しかし正直、バターサンドになったらどうなるのかは想像がつきません。

さっそく翌朝、田中長奈良漬を訪れます。
平日だというのにすでに先客が3名。
4番手で入店し無事に奈良漬バターサンドを購入できましたが、続々来客があり今日もすぐに売り切れてしまいそう。早朝に訪問して正解でした。

冷凍ですので、1時間ほど置いて半解凍していただきます。サクホロ食感のクッキー生地に、
バターのまろやかさがよく合って、一瞬奈良漬の存在を忘れる完成度。発酵した瓜の香りと苦味と甘味、そしてカリカリの食感に合わせて塩味があとからふわっとやってきます。和とも洋とも言えない唯一無二の味わいで、これは癖になります。エスカルゴバターや、トリュフバターを思わせるような組み合わせの妙です。

奈良漬バターサンド

江戸時代から続く奈良漬が、令和になって瓜とバターと一緒になるとは牛頭天王も想像してなかったことでしょう。こんなに相性がいい食材が出会ったのも七不思議のひとつかも、なんてね。
奈良漬好きの方、ぜひお試しくださいね。

写真提供:田中友規

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田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

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