こんにちは。気象予報士の今井明子です。
例年9月は台風シーズン。大切な予定が入っていると、台風が接近しないか、やきもきしますよね。
台風は毎年1月1日からの発生順に1号、2号……と番号がふられますが、それとは別の名前もあります。特に大きな災害が起こると、その名前が歴史に残ることもあります。
たとえば、1947年に関東地方で土石流や河川の氾濫などをもたらし、多くの犠牲者を出した「カスリーン台風」という名前を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。このときの「カスリーン」は人名で、アメリカがハリケーンに命名するルールにのっとっています。ちょうど終戦直後はアメリカの占領下だったこともあり、このような人名が台風につけられていたのです。
ところが、2000年からは台風の命名のルールが変わりました。日本を含む14か国が加盟する台風委員会によって、台風の影響を受ける国々で用いられている名前(国際名)をつけることになったのです。台風の国際名は全部で140個あり、リスト順に命名していって141個目になるとリストの最初に戻り、再び1番目から命名していきます。
この140個の国際名の中に、日本からも10個の国際名が入っています。「ヤギ」や「ウサギ」「カジキ」などで、すべて星座名が由来です。なぜ星座名なのかというと、固有名詞や商標ではなく、自然の事物で利害関係が生じにくく、台風と同じで空のものであることなどが理由なのだそうです。ほか、外国人が発音しやすいもの、短いもの、ほかの国の言葉でネガティブな意味を持たないことも条件です。こうしてみると、国際名にはずいぶんと厳しい条件がつくものなのですね。
ちなみに、台風が大きな災害をもたらすと、その国際名は「引退」し、かわりの名前がリストに加わることもあります。これは、その後発生した台風が、大きな災害をもたらした台風と同じ名前を名乗ると混乱するからです。たとえば、2013年にフィリピンで暴風雨や高潮をもたらし、6000人以上の死者を出した台風30号の「ハイエン」という名前も引退しました。
さて、このようなひとつひとつの台風につく国際名とは別に、日本で大きな災害をもたらした台風には気象庁が独自で命名することもあります。たとえば、2019年は台風15号「ファクサイ」が房総半島で大規模な停電を起こし、同じ年の台風19号「ハギビス」が多摩川の氾濫をもたらしました。この台風15号は気象庁によって「令和元年房総半島台風」と命名され、台風19号は「令和元年東日本台風」と命名されました。台風にこのような特別な名前がついたのは1977年以来42年ぶりのことです。なお、「ファクサイ」と「ハギビス」という国際名も引退したので、これらの台風のもたらした災害は世界的にもインパクトが大きかったということですね。
このように台風の名前についてはさまざまな決まりがあります。台風が発生すると、「次の台風はいったいどんな名前だろう。どこの国のなんという意味の言葉なのかな?」と気になってしまうのは私だけでしょうか。もちろん、気象庁に命名されるような台風に襲われるのはまっぴらごめんなんですけどね。
今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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