ブドウ

旬のもの 2021.09.05

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おはようございます、こんにちは。エッセイストの藤田華子です。

突然ですが、世界的に生産量の多い果物って何だと思いますか?
現在はバナナ、かんきつ類が上位を占めていますが、1980年代前半まではブドウが一位だったそうです。なぜならば、ワインの原料になっているから。加工せずブドウのまま食べられるのはたった2割で、あとの8割はワインになるんです。

その歴史ははるか昔、ブドウの原種は300万年前には地上に繁茂していたという説もあります。300万年前というと、なんとマンモスが悠々と歩いていたころ!そしてワインの醸造も早い段階から始まり、いまからおよそ6000~7000年前の出来事を書いた『ギルガメッシュ叙事詩』には、大洪水に備えた船を建造したとき水夫にワインをふるまったという記述が残されています。

日本には8世紀ごろに伝わり、いろいろな種類の品種が広く栽培されるようになったのは100年前くらいから。ちなみに初めてブドウを植えた場所は山梨県勝沼町で、この地で松尾芭蕉は「勝沼や 馬子も葡萄を食ひながら」という句を詠みました。

はるか昔から、私たちの身近にあり続けるブドウ。
3年ほど前、宮崎県でブドウ農園をしている友人・河野博史さんのもとを訪ねたことがありました。ちなみに河野さんはヘラクレスオオカブトのブリーダーとしてギネス記録をレコードしたユニークな顔もお持ちです(その大きさ171mm!)。

収穫と発送で忙しいなか、「ほかの農家さんもみんな同じだけどね」という前置きをして話してくださったのは、わかったつもりではいたけれども、やはり過酷な農家さんの日常。

「毎日毎日、小さい敵(害虫)とも、天気とも戦ってるよ。作物に対しての保証や保険なんてないから、収穫できなかったら食べていけなくなっちゃうもの」。台風が発生したらビニールハウスを補強し、花が咲いてから熟すまでの期間を見極め、ブドウたちの声に耳を傾ける日々。

「大切に大切に守って育ててきても、収穫する直前にダメになっちゃうこともあるんだよ。それは本当に一瞬」と。想像して胸が引き裂かれる思いになっていた私に、「でも泣いているヒマなんてないから。また育てていかなくちゃ」と、静かな、たくましい口調で語ってくれました。

特に今年は長雨の影響でブドウが水分を吸いすぎて、皮がその大きさに追いつけず、”鉢割れ”の状態になってしまうものが目立ったそう。長雨は、地球温暖化も影響しているので私たちのふだんの生活も関わっているんです。なんだか、ブドウの鉢割れが地球の悲鳴のようにも思え、改めて生活を見直すきっかけになりました。

写真提供:藤田華子

こうして、農家さんに愛情を注がれ私たちの手元に届けられるブドウ。急に一粒一粒が愛おしくなり、しみじみと口に含むととっても甘い。

ちなみにブドウは、一房のなかでも上にいくにつれて甘くなる傾向があるそう。下から上に向かって食べると、だんだん甘くなるので最後までおいしくいただけます。河野さんは「おいしいって言ってもらえるのが何よりも嬉しい。冷やして、ブドウの味を堪能してください」と朗らかに笑っていました。

みなさんもぜひ、旬のブドウを味わってみてください。「いただきます」と、感謝を胸に。

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藤田華子

ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。

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