ザクロ

旬のもの 2021.10.01

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こんにちは。料理人の川口屋薫です。
中秋の名月が過ぎて、ますます秋が深まってきています。
梨、葡萄、林檎、蜜柑など旬の果物を籠に入れて、食卓に置いても良い涼しさが嬉しいです。
日々目に触れる場所から漂う香り、自然の色合いを感じつつ、おいしく頂けます。

今回は石榴(柘榴)ザクロのお話です。

平安時代に中国から日本に伝わり、中国には、遥か昔、紀元前2世紀、漢の時代にイラン(安石国)から伝わりました。
ねじれた幹や果実のでこぼこしている形が瘤(こぶ)に似ていることから、同じ発音の榴が使われ、安石榴を略して石榴の漢字になりました。

『和名類聚抄』という平安時代中期に作られた辞書によると、日本では石榴を佐久呂(さくろ)と発音し、別の言葉の若榴(じゃくろ)と合わさり訛って「ザクロ」と読むようになったと記されているそうです。その頃から令和の今まで同じ名前ということに、少し驚きました。

鎌倉時代から栽培が盛んになり、室町時代、江戸時代には皮、果肉を薬や和菓子、鏡磨きに使うようになりました。
明治時代より前までは、鏡はガラスではなく銅から作られていました。銅鏡は時間が経つと表面が曇ってしまうために、鏡磨き職人がザクロの実を使って磨いていたそうです。

江戸時代の銭湯に「石榴口」という、湯が冷めるのを防ぐために、洗い場と湯船を仕切った板がありました。
大人は屈んで潜らなければなりません。「屈み入る」と鏡磨きにザクロが要る「鏡居る」は、同じ読みから名付けられと言われています。
ザクロの名前がこんな風に使われるほど、当時は身近な果物だったのかもしれません。

ザクロは東北から九州辺りまで広く、家の庭で植えられるようになりました。夏に咲く花はトキという鳥の顔や足の朱色に近く、独特な赤色だそうです。

収穫は10月がピークです。
国産は直売所で、国産やアメリカ産はネットで手に入れる方法があります。

主に流通しているのは、アメリカのカリフォルニア産です。日本のザクロと違うのは、熟しても実が割れないこと。
国産は、熟すと実が割れて、小さな粒々が顔を出します。

透きとおったルビー色で宝石のような甘酸っぱい粒々は、そのまま食べることができます。

グレナデンシロップは、モクテル、カクテル、肉料理やお菓子のソースなどに使います。
作り方はザクロの実と砂糖を同量、煮沸殺菌した保存瓶に交互に入れて冷蔵庫で10日間。その後、濾して加熱殺菌するだけ。瓶に入れて冷蔵保存します。

今は読書や芸術の秋。ザクロにまつわる本や絵画を楽しむのはいかがでしょうか?

ギリシア神話によると、冥界に連れ去られた花の女神ペルセポネがザクロの実を食べてしまったために、地上と冥界で暮らさなければならなくなりました。冥界で過ごしている間、作物は実らなくなったことによって冬が始まり、季節が誕生したそうです。

キリスト教では、ザクロを復活と再生のシンボルとしています。
教科書に載っていることも多い「ヴィーナスの誕生」を描いた画家ボッティチェッリは、「ザクロの聖母」で幼いイエスがザクロを掴んでいる絵を描きました。

日本では安産、子育の守り神「鬼子母神」の話があります。千人以上、万人以上の子どもを産んだとされている鬼子母神は、人間の子ども達を食べる恐ろしい女だったそうです。お釈迦さまが、鬼子母神を諭して改心させるとあります。人肉を食べるのを我慢する代わりにザクロを食べなさいと仰ったそうです。本当はザクロではなく、吉祥果と呼ばれる果物だったそうですが、怖くて暗いイメージが残ってしまいました。

美しくも危険な香りを感じるザクロですね。
今秋は探して、籠の中に入れたいと思います。

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川口屋薫

料理人
Le btagev(ルブタジベ)代表。大阪出身。料理人。珍しいやさいの定期便をしています。風薫る季節5月が過ごしやすくて一番好きです。イタリア在住中、ヨーロッパ野菜に恋し、日本の野菜が恋しくなったのをきっかけに野菜に関わる仕事をしています。 趣味 囲碁

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