しめじ

旬のもの 2021.10.11

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。
「きのこ」といえば、何を思い浮かべますか?今日は「しめじ」についてのお話です。 

食欲の秋が来た!
秋の味覚の王道である秋刀魚や栗も頻繁に並び、端境期を終えて季節を感じる野菜も出回るようになってきた。

この時期はつい、きのこコーナーの滞在時間が延びる。1年振りの松茸に、秋の到来を感じ食べてみたくなるものの、その値段に躊躇して、伸ばした手を引っ込めてしまう。
結局、食卓に馴染みのあるお手頃な「えのき」と「ぶなしめじ」の、我らがきのこ二大巨頭で悩み始めるのだ。

きのこに関する言葉として「香り松茸、味しめじ」というものがあるが、これはぶなしめじのことではなく「本しめじ」のことを指している。
本しめじは、ぶなしめじと比べると大変大きいのでびっくりする。滅多にお目にかかれないという山採りの本しめじは、傘が椎茸のような形をしているものもあるが、私たちがお店で見かけることができるのは「大黒しめじ」といってフォルムが徳利のように丸くて可愛らしいものが多い。ぷっくりと太った立派な白い軸を、七福神の大黒様に見立てているそう。

写真提供:庄本彩美

本しめじは、生きた木の根っこに住み着いて生息していく根生菌なので、人工栽培がとても難しいといわれてきたが、最近、人工栽培に成功したそうで、店頭で見つける機会も増えてきている。
1パック当たり4本程度で詰められていて、その値段、出立ちともにしめじの王様といった様子だ。
肝心の味は、その言葉通り、きのこの中でも有数の強い旨みを持つ。さらに香りも良い。肉は緻密で、しゃきしゃきとした歯応えを楽しめる。

一方、お馴染みのぶなしめじも、あまり歴史は長くない。昔から椎茸のように食べられていた訳ではなく、流通するようになったのは、本格的に人工栽培が始まった1970年代からとのこと。

こちらは本しめじと違って、ブナの枯れ木や倒木など、死んだ木の栄養を吸い取りながら生息していくため、条件が整いやすく、人工栽培の確立が早かったようだ。栽培されている様子は圧巻で、しめじの漢字である「占地」「湿地」の通り、湿った土地で地を占領するようにびっしり生えている。
ぶなしめじは、元々は旨味とともに多少の苦味を持つきのこだったが、人工栽培によって味がよく、食べやすいきのことして広まっていったそうだ。

このようにしめじと言っても、味や育ち方に様々なものがある。さらに、この2つの他にも、沢山の種類の「しめじ」と名のつくきのこがあるようだ。しめじとは、サクラやマツのような総合名のようなものである。

秋の食材は、瑞々しさだけでなく旨味や甘味を携え、滋味豊かなものが多い。それは、まさに実りの秋という言葉にぴったりの、主役を張れる食材たちが集結する。
幻のきのことも言われていた本しめじは、大きさ味ともに申し分なく、ソテーや串揚げなど、それだけで食卓を華やかにするだろう。

一方で、ぶなしめじは、単品でメインを務めることはほぼ無いが、癖が少ない分、和食・洋食・中華など、どんな料理でも組み合わせることができる。それは時に食感として、色味として、私たちの食事を潤してくれる。
それぞれ比較すれば、その食材の特徴から違いは出てくるが、そこに優劣はなく、料理の力でさらに輝き、美味しくなる。それが食材や料理の面白いところなのではないかと、私は思うのだ。

食欲の秋はこれから。今年も、きのこのコーナーには沢山の種類のものが並ぶだろう。新たなきのこにも挑戦しつつ、それぞれの美味しさと出会ってみようと思っている。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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