牛蒡 ごぼう

旬のもの 2021.10.12

この記事を
シェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

漬物男子 田中友規です。

今年も残り100日を切りまして、秋冬の野菜はこれからグッと甘みを蓄える季節がやってきます。

中でもごぼう、好きです。

ごぼうは、もともと牛の尾に似たキク科の植物というところから牛蒡と書くそうですが、前回の茗荷といい、読めるけど書けない野菜は意外と多いものですね。くさかんむりに、立を書いて、方です。
牛が、草に立って、ほぅーっと覚えましょう。

この時期、我が家の冷蔵庫にはごぼうの漬物が常備菜。しっかり歯応えが残る程度に軽く湯がいて、合わせ酢に漬け込むだけ。酢に漬けることで、ごぼうは白さを保った美しい漬物になります。
地中に根を張り力強く成長することから「延命長寿」の象徴と考えられ、その土地に根付く姿に重ね「家族が土地に根付いて安泰に暮らせますように」という願いを込めて、お節のスタメンとしても地位を確立しています。

さて僕の住んでいる京都でごぼうといえば、巨大な堀川ごぼう。豊臣家が滅亡し、聚楽第の跡地のゴミ溜めの中から大きなごぼうが…なんて話はまぁ色々なコラムで書かれていることでしょうから、今回は触れなくていいですよね。

それよりも、今回はずっと気になっていたごぼう天が美味しいという岡崎のうどん屋へ行ってきました。
行列に並ぶのが苦手なので、常に大行列のその店をいつも横目で見ているだけでしたが、美味しいごぼう天が食べられるなら、と朝一に予約の電話をいれ、車を走らせました。

お店に着くと10分刻みで予約した客がずらり。順々に入っては出て、出ては入ってと大人気です。
さっそく運ばれてきた、見るからにむちむちのうどんは、聞くと一度湯がいた太麺をさらに圧力鍋で一人前ずつ芯まで茹で上げる手法だそう。口当たりはソフトで、いわゆる京風うどんかと思いきや、噛みしめれば噛みしめるほど柔軟で強いコシ。ううん、これは独特。

写真提供:田中友規

麺をすすり、そこに一口大のごぼう天を一緒にいただくと、否応なしに普段の倍の回数ほど噛むことになります。
むにっむにっ、ざくりざくり。
小麦とごぼうの甘味が渾然一体となり、噛めば噛むほど美味しい。ごぼうを味わいたいのなら、噛む回数を倍にすれば良いのだ、と気付かされました。

なんだか某レストランレビューのようになってしまいましたが、ごぼうはその切り方ひとつで味わいが変わります。しっかりとしたコシのうどんと反割のごぼう天。これもまた一つの答え。
うどんを食べ終え、以前食べたよそのごぼう天を思い出しました。

帯広で食べたごぼう天蕎麦は、極薄にささがきにした花びらのようなごぼう天で、なんとも軽やかな甘味に仕上がって、あの無骨なごぼうの姿とは似ても似つかないかき揚げで喉越しのよい細めの蕎麦とも良く合います。

そしてもう一つ札幌で食べた、ごぼう一本揚げの入ったスープカレー。じっくり油で揚げた極太ごぼうは、ざっくりと力強く齧(かじ)り付くスタイル。スパイスの香りにも負けない、強い土の香りが強烈に拮抗し、バランスを保っていました。
どちらもごぼうの甘味と食感の良さを存分に引き出していて、ごぼうってこんなに美味しかったっけ?と、ごぼうについての記憶が曖昧になってしまいます。

一見地味に見える牛の尾に似た茶色い野菜ですが、ごぼうほど与えられた役によって、変化を遂げる野菜を知りません。切り方ひとつ、下処理ひとつで、上品にも、力強くもなってくれる。
今年もまたごぼうが美味しい時期がやってきます。思わず、ほぅーっと叫んでしまうようなごぼう料理に出会いたいですね。

写真提供:田中友規
この記事をシェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

  • instagram

関連する記事

カテゴリ