こんにちは。ライターの小島杏子です。
秋深まり、今年も残すところあと2ヶ月とすこし。近所を歩けば、植物たちの冬支度も目につくようになりました。
本日のテーマである「ナナカマド」の木も、これから秋冬とさまざまな彩りで楽しませてくれる植物です。

ナナカマドはやや涼しい気候を好むバラ科の高木。
初夏には、白く小さな花がその枝先に身を寄せるようにして咲きこぼれます。
秋になると美しく紅葉し、やがて5ミリほどの果実を実らせる。そして、気温が下がり、冷たくなる大気のなかで、ナナカマドの果実は赤く燃えるような色に熟していくのです。
(ただ、ナナカマドには変種がいくつかあり、分布する地域によって少し姿は異なるようです)

西日本の温暖な地域に住む私にとって、ナナカマドはあまり見慣れた樹木ではないのですが、北海道や東北などでは街路樹として親しまれているのだそうです。
たとえば札幌市の街路樹といえば、有名な銀杏並木を思い浮かべますが、実は札幌市で最も多い街路樹はナナカマドなのだとか。市内に約3万本も植えられた木々が、夏の花、秋の紅葉、そして冬の雪のなかでも鮮やかさを失わない果実と、長いあいだ北国の人々の目を楽しませます。
また、ナナカマドの果実は、ツグミなどの小鳥たちが冬を越すための貴重な食糧の役割も果たしているのです。

ところで、なぜナナカマドの実は、雪をかぶっても変色したり腐ったりしないのでしょうか。 それはナナカマドの実が持つ「ソルビン酸」という成分によるものだそうです。これは果実を腐らせる菌に対する抵抗力を持つ成分です。ナナカマドに特有の成分で、ナナカマドの学名Sorbus commixtaから取って「ソルビン酸」と名付けられました。

「ナナカマド」は漢字で「七竈」と書きます。これは読んで字の如く、7回かまどに入れても燃え残るほど丈夫な材質だから、という由来が広く知られています。
ところが、実際にはそれほど燃えにくいわけではなく、薪材や木炭に適しているのだといいます。ナナカマドの木炭はとても上質で、これを作るためには、7日間かまどで焚く必要があったことから「ナナカマド」という名がつけられたという説もあるくらいです。

人の目を楽しませたり、材質として優秀であったりと、ナナカマドはなかなか役に立つ木のようです。
余談なのですが、私の名前に入っている「杏」の木もいろいろと役に立つ植物なのです。そのことを知ったのは小学1年生のころ。学校で「自分の名前の由来」を尋ねてきなさいという宿題が出たのです。
私が「なぜ杏子という名前にしたの?」と尋ねると、名付け主である父がこう言いました。「杏の花が咲く春に生まれたし、お父さんが一番好きな木だから」と。
幼い私はそれを聞いて困りました。なぜなら、それっぽっちの由来では原稿用紙が埋められないからです。もっと大袈裟で長い話をしてくれなくては!「もっとなんかないの!?」と私は父に詰め寄りました。
父は渋々「じゃあこう書くといいよ。杏の花は人の目を喜ばせ、実は芳しい香りを漂わせるばかりでなく人も鳥も美味しく食べられる(実際は日本の杏は酸っぱくて加工しないと食べにくいですが)。種は薬にもなるし、杏仁豆腐という美味しいデザートにもなる。そんな風にいろいろな人を喜ばせる杏という木の名前をつけましたって」私は大満足です。なんと立派な由来でしょうか。しかし父はやはり「でも本当は、ただ好きな木だからってだけだよ」と繰り返していました。
なぜ父がそんな素っ気ない由来を強調するのか、当時はよくわかりませんでした。けれど、大人になった今はなんとなくわかります。なんの役に立たなくてもいい、ただそこにあるだけで嬉しくなるような木の名前を娘につけた。それが父の気持ちだったのでしょう。もちろん人の役に立つことは尊いですが、それ自体が存在意義になる人などいないのです。

脱線してしまいましたが、そろそろ気温も下がり、木々の紅葉がはじまる季節。残念ながら私の住む地域には多くないナナカマドの木ですが、北の町を彩る美しい姿を想像してみながら本日のコラムをお送りいたしました。

小島杏子
僧侶・ライター
広島県尾道市出身。冬の風景が好きだけど、寒いのは苦手なので、暖かい部屋のなかから寒そうな外を眺めていたい。好きなのは、アイスランド、ウイスキー、本と猫、海辺。
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