秋が深まってくると、空の青さを映しとったような、リンドウの花との出会いが待ち遠しくなります。日本の秋の山野草を代表する草花ですが、近ごろは自然の中で咲いている姿と出会うのは難しくなっているかもしれません。

青紫色の風情あふれる花
リンドウはリンドウ科リンドウ属の多年草です。日本では本州、四国、九州に分布。放浪の俳人・種田山頭火が「山ふところの ことしもここに 竜胆の花」と詠んだように、かつては人里近くでもごく普通に見ることができる花でした。定期的に草刈りが行われ、明るい光が入る、リンドウの生育に適した林床や草原などがあちこちにあったためです。

草丈は20~60㎝と、比較的小柄。葉は対生し、先端は細くなります。ササの葉に似たすっきりした形で、植物学では披針形(ひしんけい)といわれます。
花期は9~11月。5弁に裂けた鐘形の花を上向きに、いくつも並んでつけます。雨の日や夜間は、花の先は渦巻いて筆のような形に閉じ、中の花粉を守っています。
花の色は、印象深い青紫色。大きな群落はつくらず、1株、あるいは数株ずつひっそりと咲いているので、風情がいや増します。

清少納言と紫式部にも愛されて
晩秋に咲くリンドウの花の美しさには、平安時代の二人の大作家、清少納言と紫式部も魅了されました。
二人とも、霜が降りて他の花が枯れてしまった後でも、華やかに咲いているリンドウの「残花の美」に注目しています。
また、清少納言が触れている「枝ざし」とは「挿し木」のことらしいのですが、現代のリンドウの栽培も主として挿し芽で行われるそうです。

熊の胆(くまのい)よりも苦い薬草
リンドウの中国名は「竜胆」です。苦い薬と言えば熊の胆嚢(たんのう)を干した「熊胆(ゆうたん)=熊の胆(くまのい)」が有名ですが、リンドウの根から作った生薬は、それよりもっと苦いというので「竜胆(りゅうたん)」と名づけられました。
熊胆と同様、健胃薬です。その音読みがなまって「りんどう」となりました。
また、別名には「エヤミソウ(笑止草)」があります。あまりに苦いので、笑いが止まってしまうほどだからだそうです。
岩手県出身の作家・宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にはリンドウの花が登場します。「星祭りの夜」、主人公ジョバンニが親友のカムパネルラとともに、美しい汽車に乗って銀河をめぐる物語です。
『銀河鉄道の夜』は賢治の亡き後、草稿として遺されていました。「星祭りの夜」には旧暦の七夕祭と、彼岸と此岸が結ばれるお盆のイメージが重なっています。

物語の中で、カムパネルラが指さした窓の外では「線路のへりになった短い芝草の中に、月長石ででも刻まれたやうな、すばらしい紫のりんだうの花が咲いて」いる情景が続きます。
銀河鉄道は、かつて花巻から遠野まで運行していた「岩手軽便鉄道」がモデルだといわれます。賢治もまた、車窓を流れるリンドウの花を目にしていたことでしょう。
花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」
リンドウは花の持ちがよいので、キクと同様に、切り花にしてお盆の供花に使われます。岩手県は現在でも、リンドウの切り花の生産が盛んで、全国の生産量の半分以上を占めています。

賢治と同じく岩手県出身の歌人・石川啄木には、北海道の「小樽日報」の記者時代に
「かぐはしき み魂(たま)の息吹 咲きいでし 君が墓なる 竜胆の花」という短歌があります。墓の傍らに香しく咲くリンドウの花に、亡き人の魂のよみがえりを託す、繊細で優しい祈りの歌です。
リンドウの花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。凜とした静謐な青を湛えて、群れずひっそりと花開く姿からの連想でしょう。
リンドウ(竜胆)
学名Gentiana scabra 英名Japanese gentian
リンドウ科リンドウ属の多年草。本州、四国、九州に分布。9~11月に青紫色の鐘形の花を上向きにつける。同属近縁種に、春咲きのフデリンドウ、ハルリンドウなどがある。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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