漬物男子、田中友規です。
我が家では、普段から研究のために世界中の料理を創作します。
今日は自家製ベーコンだ、とか明日は味噌漬けが食べ頃だ、という具合で作りたい欲求に任せていると、ちょっと胃が疲れてきたんですけど・・・と身体が粗食を求めてきます。
粗食といっても、それは「粗末な食事でいいや」という意味ではありません。
飽食の反対側にある、質素ながらもしつらえの良い一汁一菜を食べたくなるわけです。
白菜漬、梅干し、焼きおにぎり、海苔の味噌汁・・・と
余計なものを削ぎ落とした献立を考えるのもまた粗食の愉しみ。
本当にいま口にしたいものは?と問いかけます。
そうだ、長いもがいい。
軽めの鰹出汁で緩めてずるり。
わさびか、ホースラディッシュもいいな。
むぎ飯ととろろの相性はいわずもがな。
いまこのコラムを読んでいたら、口の中であの粘りと香りを思い出し、
きっともうすっかり食べたくなっているでしょう?
もし今晩とろろで粗食!と思ってしまったら、
長いもを摺り下ろす前にこの方法を試していただきたい。
長いもは、極薄のかつら剥きにしてから、できる限り細く細く、まるで絹糸のようにして 冷やした鰹出汁と合わせて味を整える、仕上げにうずら卵を添えて完成です。
実は15年ほど前に京都の俵屋旅館でいただいた、箸休めに出された小鉢の再現で、 その晩、いただいた料理すべてに圧倒された貴重な体験だったのですが、 この長いもの素麺が妙に心に刺さってしまったのです。
とろろの滑らかさと短冊の繊維感、両方を味わうにはこの方法がいい。
我が家ではもうずっと、長いもの素麺にして食べることにしています。
ありふれた長いもという食材にも関わらず、
極細に切るというシンプルすぎる工夫で
まったく新しい体験を作り出しているのです。
また、長いもは青のりが合いますから、できるだけ良いものを。
高知県四万十の天日干しの青のりは、棒状の繊維の集合体。
指先でほぐすと、はらりはらり青い香りを放ち出します。
冷蔵庫に卵の黄身を醤油漬けにしたのがあった、と
いそいそと用意する手は止まりません。
麦飯、長いも素麺、青のり、卵の黄身醤油漬け。
その味は、もう見たらもうわかりますよね。
俵屋旅館の繊細さには到底及びませんが、家で食べるにはこれで十分。
満ち足りる粗食、みなさんは何を食べたくなりますか?
年末年始の疲れたお腹に聞いてみてくださいね。
田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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