ホトトギス

旬のもの 2021.06.14

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です.

私は10歳から鳥を見始めたので、バードウォッチング歴はかれこれ40年以上。鳥にどっぷりつかった人生です。
常に鳥を意識して生きてきたので、普段の生活でちょっと困ることもあります。そのひとつが、どんなときでも鳥の声が気になってしかたがないことです。たとえば、某家電メーカーのファクシミリの受信完了音。ホトトギスの声が流れるのですが、街を歩いていると聞こえることがあり、「ええ!なんでこんなところに?」と何度思ったことか。メーカー側からすれば“すてきな鳥の声で”という思いからでしょうが、私からしたらなんて紛らわしいと思ってしまうのです。

さて、そのホトトギス。全長28㎝のカッコウの仲間の鳥です。
有名な俳句に「目には青葉、山ホトトギス、初鰹」とあるように、木々の葉が青々とする5月下旬から6月上旬にかけて、北海道南部から奄美諸島までの日本の森に渡ってきます。

この俳句、本来は「目には青葉、耳には山ホトトギス、口には初鰹」とされるところを耳と口は省略したのだとか。
「特許許可局」などと聞きなされる「キョッキョ、キョキョキョキョ」という独特な節回しで鳴くホトトギスは、昔から日本では非常に高い関心が寄せられてきた鳥です。とくに文芸の世界では、おそらくいちばん愛好された鳥ではないでしょうか。たとえば480首ある万葉集のうち、なんと156首にホトトギスが詠まれているのです。他の鳥では雁が51首で鶯が47首ですから、その突出ぶりは群を抜いています。

また、卯の花や橘と関連付けて詠まれた歌が31首もあることから、夏の到来を告げる鳥として、当時の人々の心を捉えていたことがうかがえます。春告げ鳥ならぬ“夏告げ鳥”です。
また、枕草子には清少納言が、牛車1台を仕立ててホトドギスの声を聞きに出かけるシーンがあります。おそらくこれは、記録に残っている日本最古のバードウォッチングではないかと私は思うのです。

そんなホトトギスの声を聞くためには、山へ行くのが常識です。ところが数年前、千葉県の平地にある自宅周辺に数日間、ホトトギスが滞在したことがありました。これはいったいどうしたことか。その理由はウグイスがいたからです。ホトトギスには、他の鳥の巣に卵を産みつけて子育てをさせる「托卵」という習性があり、ほとんどの場合、ウグイスに卵を托します。ですから、その相手のウグイスがいれば、卵を産みつけようとホトトギスがやってくるのです。

ウグイスは、冬は平地で過ごし、春になると山へ移動して子育てをする鳥ですが、近年、山に行かずに平地に留まり繁殖する個体が出はじめています。そんなウグイスの暮らしの変化に、ホトトギスが追従したのでしょう。

夏告げ鳥として先人達を魅了したホトトギスの声ですが、ウグイスがいない街の中でも、5月頃に渡りの途中、飛びながら鳴いているのを聞くことがあります。ただし、聞こえるのはたいてい夜です。私はその声を毎年確かめたくて、窓を開けて耳を傾けるようにしています。夜の涼しい風に乗って夜空から声が聞こえてきたときは、「ああ、今年もホトトギスが渡ってきたな」と、しみじみ思うのです。きっと万葉の昔も同じ気持ちだったに違いありません。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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