ユリカモメ

旬のもの 2022.01.13

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

皆さんはご自分が住んでいらっしゃる都道府県のシンボルバードをご存知でしょうか。 47都道府県の全てでシンボルバードが決められており、そのラインナップを眺めてみると、メジロやヒバリなどの馴染み深い鳥から、コシジロヤマドリやオオミズナギドリなどのマニアックな鳥まで、各都道府県の特色があってなかなか面白いものです。

今回の主人公であるユリカモメは東京都の鳥です。東京都のホームページによると、1965年にキジバト、ヒバリ、ムクドリ、メジロ、ユリカモメなど10種を「都民の鳥」の候補として選定し、その中から都民の投票によって選び出されたんだそうです。今では、すっかりユリカモメという名前は東京ではメジャーになっていて、新橋からお台場・豊洲方面を結ぶ新交通システムの名称にも使われていますね。

写真提供:柴田佳秀

さて、そのユリカモメ。大きさ40cmほどのカモメのなかまです。10月末くらいになると日本へ渡ってくる冬のカモメで、白い体に真っ赤な嘴と脚が目立ちます。また、目の後ろに黒い模様があり、なんだかヘッドホンをしているよう。雌雄同色なので、残念ながらオスとメスは見分けることができません。

カモメは海にいるイメージがありますが、ユリカモメは海から離れた川や池にも普通にいる鳥です。とくに公園の池ではエサを与える人がいるので、それを目当てにたくさんのユリカモメがやってきます。それにしても公園のユリカモメは、ビックリするくらい逃げません。手すりにとまっている鳥に、そーっとスマホを近づけるとくっついちゃいそうな距離でちゃんとポーズをとってくれます。いじめる人がいないので安心しきっているのでしょう。

スマホで撮影 写真提供:柴田佳秀

ところでユリカモメは、なぜ、東京都の鳥に選ばれたのでしょうか。それは平安時代に書かれた『伊勢物語』にある「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思う人はありやなしやと」という和歌にちなみます。この都鳥というのがじつはユリカモメのことなのです。では、なぜ都鳥がユリカモメと判断できるのでしょうか。

『伊勢物語』を読むとこの都鳥は、「白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水のうへに遊びつつ魚をくふ」と書いてあります。これはシギくらいの大きさの嘴と脚が赤い白い鳥が、水上を飛びながら魚を食べる習性があるということになり、白くて嘴と脚が赤い鳥で魚を食べるユリカモメの特徴とまさに一致します。東京都は現在の日本の都ですから、そこのシンボルバードとして都の鳥=ユリカモメがふさわしいという事なのでしょう。また、この和歌の舞台が隅田川ということもありますね。

写真提供:柴田佳秀

そのユリカモメは4月頃になると、それまでの装いとはまったく違った姿になります。なんと頭が真っ黒に変身するのです。オスもメスもみんな同じように頭が真っ黒になります。知らない人が見たらきっと冬のユリカモメとは別の鳥ではないかと思ってしまうでしょうね。私は頭が真っ黒なユリカモメはかっこいいなあと思い、惚れ惚れしてしまいます。

夏羽のユリカモメ 提供:柴田佳秀

頭が黒くなったユリカモメは、5月初めくらいには北の繁殖地に旅立ちます。向かうのはロシアのカムチャツカ半島です。私は30年ほど前にカムチャツカの繁殖地を訪ねたことがあるのですが、驚いたことにここでのユリカモメの天敵はなんとヒグマ。繁殖地にテントを張って寝泊まりしながらの調査はヒグマにおびえながらの恐怖体験でした。幸いヒグマは姿を現さなかったので、今もこうして元気に原稿を書いていられるわけです。

お台場のユリカモメ 提供:柴田佳秀

この冬に公園でユリカモメを見かけたら、ぜひ彼らの脚に注意してください。アルファベットと数字が書かれた色脚環がついている鳥がいるかもしれません。これは鳥たちの移動を調べるための調査で、この脚環によって、日本で越冬するユリカモメがカムチャツカから来ていることがわかりました。もし番号が読めたら私宛に報告していただけると嬉しいです。友人の研究者にお知らせします。

脚環のついた鳥 提供:柴田佳秀
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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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