金盞花きんせんか

旬のもの 2022.01.22

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こんにちは。
俳人の森乃おとです。

大寒を迎え、寒さがますます厳しくなる頃、太陽の光の輪を思わせる黄金色の花が、次々と花を咲かせ続けています。花の形と色が黄金の盞(さかずき)のように見えるため、中国でキンセンカ(金盞花)と呼ばれ、和名もそれにならっています。

学名の由来は「カレンダー」の語源から

キンセンカは地中海沿岸地方が原産の、キク科キンセンカ属の一年草。学名はCalendula officinalis(カレンデュラ・オフィキナリス)。属名の「Calendula」はラテン語で「月の初めの日」という意味です。花期が長くどの月でも咲いているために名づけられ、英語のカレンダーと語源は一緒です。

種小名の「officinalis」は、「薬用の」という意味です。ヨーロッパで薬効が高い植物として重用され、葉は虫刺されなどの塗り薬に、花は黄疸(おうだん)や胃腸病、虫下しなどに使われました。古代エジプトでは美容オイルとなり、かのクレオパトラも愛用していたとか。

またスープに浮かべて香りを楽しみ、高価なサフランの代わりにバターやチーズなどの色付けに用いられました。そのため、「エジプトサフラン」「貧乏人のサフラン」とも呼ばれました。

キンセンカは「ポット・マリーゴールド」

キンセンカは英国では当初、聖母マリアの祭日を飾る花という意味で、「マリーゴールド(マリアの黄金の花)」と呼ばれていました。ところが15世紀末の大航海時代に、メキシコ原産でキンセンカによく似たキク科マンジュギク属の花が、ヨーロッパに持ち込まれます。その花の名も「マリーゴールド」とされたため、混同が生じました。

次第にキンセンカは「ポット=pot」を頭につけて、「ポット・マリーゴールド」と呼ばれるように。「ポット」には鉢植えで育てる食草・薬草という意味があります。

キンセンカとマリーゴールドは、花期がともに長く、花の色も黄やオレンジと共通点は多いのですが、葉の形で容易に区別できます。キンセンカの葉は細長い単純なヘラ状ですが、マリーゴールドの葉は、キク科植物によくみられる羽状複葉になっています。また、マリーゴールドは食用・薬用にはなりません。

唐(トウ)金盞花と姫(ヒメ)金盞花

日本で見られるキンセンカには、花径が7~10㎝と大きいトウキンセンカ(唐金盞花)と、花径2~3㎝で、ヒメキンセンカ(姫金盞花)もしくはホンキンセンカ(本金盞花)と呼ばれる小型の種とがあります。

トウキンセンカは江戸時代末期の嘉永年間に中国から渡来したので、こう名付けられました。一方、ヒメキンセンカないしホンキンセンカは、小柄で元々日本に存在したという意味ですが、平安時代にやはり中国から渡来したようです。

「フユシラズ(冬知らず)」の別名で知られ、野生化した姿を各地で見かけます。園芸化が進んだトウキンセンカに比べて華やかさには欠けますが、すっきりとした清楚な佇まいを愛する人も多いと思います。学名はCalendula arvensis。種小名は「野原の」という意味です。

「太陽と共に眠りに就き、太陽と共に泣きながら起きる花」

16世紀の英国の劇作家、ウィリアム・シェイクスピアは戯曲『冬物語』の中で、キンセンカをこのように形容しています。

キンセンカの花言葉は「初恋」のほか「別れの悲しみ」「絶望」など切ないものが多いのですが、それは次のようなギリシャ神話に由来します。

太陽神アポロンに恋した水の妖精(ニンフ)クリュティエは、アポロンとバビロンの王女が愛し合っていることに嫉妬し、二人の仲を王女の父王に密告します。すると厳格な王は娘を生き埋めにしてしまいます。その恐ろしい結果に後悔したニンフは9日間悲嘆に暮れ続け、キンセンカの花に変身したといいます。

もう一つは、アポロンと美少年クリムノンの物語。二人に嫉妬した雲の神が太陽を8 日間も隠してしまい、絶望した少年は死んでしまいます。アポロンは少年をキンセンカに変え、自身の輝きを与えました。そのためキンセンカは太陽の上る朝に花を開き、夕方には閉じてしまうのだと言われます。

一方、現代歌人の鳥海昭子(とりのうみ・あきこ)さんの短歌では、キンセンカの持つ太陽のような明るい幸福感が、高らかに詠われています。

誰とでも 仲良くしそうな キンセンカ お日さまいろの 顔をあげたり

トウキンセンカ(唐金盞花)

学名Calendula officinalis 
英語名Pot Marigold
キク科キンセンカ属の一年草。地中海沿岸地方原産。日本には江戸時代末期に中国から渡来。切り花として盛んに栽培される。小型の別種に、平安時代に渡来したヒメキンセンカ(姫金盞花)/ホンキンセンカ(本金盞花)があり、別名「冬知らず」。長春花とも。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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