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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

1月は毎年とっても気になる行事があります。
天神様で行われる鷽替(うそか)え神事です。

鷽替え神事は、ウソという名前の鳥を模した木彫りを天神様からいただいて、また翌年に納める行事。鳥の鷽が嘘と同じ読み方なのにちなみ、古い木彫りの鷽を新しい鷽に替えることで、前年の災厄・凶事などを嘘に替えて、その年は良い年になるようにと祈願します。江戸時代に福岡県の太宰府天満宮で始められ、今では東京都の湯島天神や亀戸天神など、全国各地の天神様で行われています。

写真提供:柴田佳秀

私は長いあいだ鳥ばかり見てきたせいか、とにかく鳥が気になります。鳥と関係がある物ならば何でも興味が出てしまう困った習性があり、鷽替え神事のウソも欲しくてたまらなかったのですが、なかなか行くチャンスがありませんでした。それでも10年くらい前に、ようやく亀戸天神にお参りして可愛いウソの木彫りをいただき、その魅力にすっかりはまってしまいました。今は全国の天神様をめぐってコレクションするのが夢です。

写真提供:柴田佳秀

このウソはもちろん実在し、日本でも見られる鳥です。大きさは16cmほどの森に棲む小鳥で、オスは全身が灰色で頭が黒く、ほっぺの赤が目立ちます。メスは全身が褐色で頭が黒、赤いほっぺはありません。夏の間は、本州中部以北の標高2000mくらいの山の森で暮らし、北海道では平地の森でも見られます。食べものは、夏は主に昆虫で、秋になると木の実や木の芽などの植物が多くなります。

オス

ウソの嘴は、ペンチのような形をしており、噛む力はかなりなものです。堅い種もなんなくかみ砕いてしまうパワーがあります。一度、調査で捕獲したウソに指を噛まれたことがあるのですが、ビックリするくらいの痛みで三角形に青あざができてしまいました。

メス

晩秋になると、いよいよ山の木の実が乏しくなるので、そろそろ引っ越しです。目的地は平地の森。そこにはまだまだ木の実がありますからね。また、この頃には極東ロシアなどの森で子育てをしていた、国外繁殖組のウソたちも日本へやってきます。国外組はアカウソと呼ばれ、オスが頬だけでなくお腹までほのかに赤いので見分けることができます。

アカウソ

国内組も国外組も全国の平地の森で出会えますが、その数は年によって大きく違い、たくさん来るときもあれば、ぜんぜん来ないときもあります。食べものを探して群れが動いているので、例えば山の木の実が大豊作の時は引っ越しする必要がないので、平地には現れないのです。

ところでウソって、ちょっと変わった名前ですよね。その由来は、いつも嘘をついて騙していたからというわけではありません。じつは、彼らの鳴き声に由来しているのです。「フィッ、フィッ」と柔らかい音色の声を出すのですが、この声が口笛とそっくり。その口笛のことを昔は「嘯(うそ)」と呼んでいて、口笛に似た声を出す鳥なので嘯鳥(うそどり)、すなわちウソという名前になったと言われています。

この呼び名は鎌倉時代にはあったそうですから、ずいぶん昔から日本人には知られていた鳥なんですね。一方、ウソの英名はBull finch。牛のようなヒワという意味です。頭が大きくて首が太い体型が牛を連想させることからの命名だそうですが、同じ鳥でも日本と西洋ではずいぶん感じ方に違いがあって面白いですね。

こんな可愛く美しい小鳥のウソですが、ちょっと困ったこともあります。それはサクラの花芽が大好きなこと。2月にもなると平地の木の実もつきてきます。そうなると今度はサクラの花芽を食べ始めるのです。時には大群でやってきて花芽を次から次へと食べてしまい、春には寂しい花見になってしまうことがあるそうです。特に桜で有名な観光地では、ウソの食害が大問題になることもあります。

サクラを食べるウソ 写真提供:柴田佳秀

でも、ウソを見るならばチャンスです。山里のサクラの名所で気をつけていると、花芽を食べに来るウソに出会えるかも知れません。食べ過ぎて怒られないか見ていて心配になりますが、シックで可愛い姿はいつ見ても癒やされます。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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