コーヒーとの付き合い方

旬のもの 2022.02.12

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ご相談の中で、普段口にするものについてアドバイスをさせていただくことがあります。そのときはお薬のお話よりも、食事のアドバイスが主体になっている時があるぐらい、食べ物や飲み物は心身に大きな影響を及ぼします。

現代の栄養学では食品に含まれる栄養素や微量元素などに注目し、その効果を応用しようとしますが、中医学では、成分そのものではなく、食物全体が人の心や体にどういった影響を及ぼすのかに注目し、応用しようとします。

普段何気なく口にしている飲み物にも、特性や性質があり、人によっては合う合わないがあります。

雑談のお供に、休息のきっかけに、コーヒーを飲む方も多いと思います。昨今の研究でコーヒーには、肉体疲労を回復させ、コレステロール値を下げ、心筋梗塞などの心臓病を防ぐとされています。また国立がんセンターの調査研究では、肝臓がんの抑制効果があることが分かっています。

コーヒーの働きを中医学から説明すると、その性質は温性で、養心安神、強心、利水、解酒毒。心を落ち着かせ、二日酔いに良く、体内の水分を排出すると考えられます。また覚醒作用があることから、頭をスッキリさせたいときにもよいとされます。一見するとどんな人にも良さそうですが、あまりおすすめ出来ない場合もあります。

コーヒーの性質は温性で温める力を持ち、そして利水といって水分を排出する力を持っています。これは、言い換えれば「温め渇かす力」といえます。コーヒーはまた、“昇発”という力をもち、気を体の上部に持ち上げます。頭がスッキリしないときなどにコーヒーが良いのはそのためです。

朝日が昇るように、正常な場合、人体の陽気も早い時間には登り、睡眠から覚醒へと導いてくれます。そして活動的になり頭がよく働きます。日が暮れるとともに徐々に気は下降し、鎮静しやすくなります。

ただし、普段から気が昇りやすい人がコーヒーを多量に飲むと、気の過度な上昇により、めまい、耳鳴り、頭痛、そしてイライラやのぼせなどが起きやすくなります。逆に緑茶、紅茶、烏龍茶などのお茶類は気を降ろす力があると考えられているので、同じカフェインが入った飲み物でもそれらをおすすめします。

また、アトピー性皮膚炎などで顔やまぶた、首など、体の上部に乾燥性で赤い炎症が起きているときには、コーヒーの温める力と乾燥する力が悪影響を及ぼしかねないから、積極的に避けるようにおすすめします。こういった方には、緑茶など涼性で冷ます力を持った飲み物をおすすめしています。

では紅茶はどうでしょうか。紅茶は温性ですが、おなじく気を下ろす力があるとされます。コーヒー、緑茶、紅茶を薬膳の視点から比べてみましょう。

【コーヒー】
性味 苦味/平性~温性。
帰経 心肺
効能 養心安神、強心利水、解酒毒
適応 眠気、二日酔
作用 覚醒

【紅茶】
性味 苦味、甘味/温性
帰経 心肺
効能 養心安神、止渇、利水
適応 口渇、煩熱

【緑茶】
性味 苦味、甘味/涼性
帰経 心肺胃肝
効能 生津止渇、清熱解毒、利頭目、除煩安神
効能 頭痛、視力低下、倦怠、眠気、煩熱、口渇
作用 爽快

(”現代の食卓に生かす「食物性味表]” 日本中医食養学会 編著より)

見比べてみると、紅茶と緑茶には、「止渇(しかつ)」や「生津(しょうしん)」とありますが、コーヒーには「利水」だけです。

「止渇(しかつ)」とは、激しい喉の渇きを解消させるという意味で、「生津(しょうしん)」は、潤い(津液/しんえき)を生むという意味で、止渇と同じ効果があります。

「利水(りすい)」は水分や余剰物質を尿として排出することなので、紅茶と緑茶には潤いを造りだす効果があるけれど、コーヒーは潤いを減らし続けるという違いがあります。ちなみに養心や安神とは、「心を安らげる」という意味です。

体の潤いである「津液(しんえき)」とは体の正常な体液の事です。
津液は単に水分というわけではなく、飲食物から作り出されるものなので、飲んだ水がそのまま津液になるわけではありません。津液は、臓腑、筋肉、毛髪、粘膜などを潤し、関節の動きを円滑にするなどの働きを担っており、中医学では、この津液を守ることを大変重要視します。これは津液の不足が組織液の不足を引き起し、細胞や組織が正常に働かなくなってしまうばかりか、血液もドロドロしてしまい、流れにくくなってしまうからです。

津液が足りなくなると、乾燥症状(口やのどの皮膚の乾燥、便秘、いらいらなど)からひどい場合は脱水症状(意識喪失、痙攣)にまだ至ります。体から水分(汗であれ、血であれ)が漏れだすことは命にかかわることなので、津液を守ることは大変重要なことと位置づけられています。

興奮しやすい人、喉がよく渇き常に何か飲み物を欲する人、乾燥肌の人などでは、利水のコーヒーよりも、生津や止渇のちからを持った緑茶や紅茶のほうがおすすめです。またのぼせやすい人やイライラが出やすい人は温性の紅茶より、涼性の緑茶が良いでしょう。

コーヒーの香りはなんとも心地よいものですよね。コーヒーの香りにはリラックス効果もあるそうですし、中医学でも心地よく感じる香りには、気を巡らせ、精神を安定させる力があると考えられています。コーヒー豆をひいて、ゆっくりとコーヒーを淹れるその過程も、楽しさの一つかもしれません。

熱のこもりなどがなく、少量を適度に楽しむ分には、害はありません。ご自身の体調、体質と相談しながら、今日もコーヒーと共に過ごしていきましょう。

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櫻井大典

国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。

櫻井大典|ゆるかんぽう

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