ユキヤナギ

旬のもの 2022.03.19

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

3月、桜前線の到来前。純白の雪が降り積もったかのよう花開くのが、ユキヤナギ(雪柳)です。関東地方では、代表的なサクラの品種「ソメイヨシノ」より1週間から10日早く、枝いっぱいに可憐な花を咲かせます。まるで去りゆく冬を惜しむかのように。

ユキヤナギはバラ科の落葉低木

「雪柳」という名前がついたのは、白い小さな花が雪のようで、弓なりに弧を描く枝と細長い葉の形や雰囲気が、シダレヤナギ(枝垂れ柳)に似ているためです。けれどもユキヤナギはバラ科シモツケ属の落葉低木で、ヤナギの仲間ではありません。

ユキヤナギの樹高は1~2mほど。花の直径は8mmほどで、花びらは5枚。内側に雌しべ5本、雄しべ20本ついています。

バラ科といっても、シモツケ属の植物は、サクラやウメなどとはかなり印象が異なります。日本では10種余りが生育。小さな花の集まりをつけ、観賞用の価値が高いものが多くあります。属を代表するシモツケ(下野)は、ピンクの小花の集まりが美しく、ほかによく知られているのは、ユキヤナギと兄弟のように似ているコデマリ(小手毬)でしょうか。

ユキヤナギが小さな花を枝全体に散らしてつけるのに対して、コデマリは毬状の集まりを枝の先につけ、それが名前の由来になっています。
ちなみに姿がよく似ているオオデマリ(大手毬)は、バラ科ではなく、レンプクソウ(連福草)科です。

ユキヤナギの学名命名者は、シーボルト

ユキヤナギの学名はSpiraea thunbergii (スピラエ・ツンベルク)。「Spiraea」はギリシャ語で「螺旋」の意で、 葉がラセン状に付く様子から付けられました。「thunbergii」は江戸時代中期の1775~76年、長崎・出島のオランダ商館に勤めたスウェーデン人医師・植物学者のカール・ツンベルクを指します。植物分類学の祖、リンネの弟子です。江戸時代後期の1823~28年、やはりオランダ商館に滞在したドイツ人医師・博物学者のフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトが、先輩に敬意を表して命名しました。

シーボルトは著作の『日本植物誌』の覚え書の中で、ユキヤナギについて触れ、強い関心を示しています。「この種は日本各地の標高の高い地域の谷間や山地の岩場や傾斜地に見出される」。この記述を見ると、シーボルトはユキヤナギを日本の在来種と考えたようです。

ユキヤナギの原産地について、多くの植物図鑑は「原産地は中国、日本には中国から渡来」としています。しかし近年は、ユキヤナギは在来種でもあると考え、「原産地:日本・中国」とする図鑑も増えています。その一方で、在来種とされるものは過去に渡来したものが逃げ出して、定着した結果ではないかという意見も出ており、見解は統一されていません。
日本でユキヤナギが生育する地域は、本州の関東地方以西と四国、中国、九州とされています。

花言葉は「愛嬌」「愛らしさ」「静かな思い」

ユキヤナギの花言葉は「愛嬌」「愛らしさ」「静かな思い」。
「愛嬌」と「愛らしさ」は、花が小さくて可愛らしいことから。「静かな思い」は、降り積もった雪の静けさを感じさせることから生まれました。

ところで、ユキヤナギを愛でるタイミングは3回あります。
まずは満開の花盛り。次いで、花期の終わりのこぼれ花。そして、最後は秋の紅葉です。

こぼれねば 花とはなれず 雪やなぎ

俳人・加藤楸邨(かとう・しゅうそん/1905―1993年)の句。たくさんの小さな白い花が、枝を覆うように群れ咲く姿は、まるで雪が被ったかのようです。地面にこぼれてはじめて、「ああ、花だったのか」と人は知るのです。

ユキヤナギの別名はコゴメバナ(小米花)。こぼれた花弁がお米を撒いたように見えるからです。また、岩場に生えることがあるので、イワヤナギ(岩柳)という呼び名もあります。

ユキヤナギ(雪柳)

学名Spiraea thunbergii 
英名Thunberg's meadowsweet
バラ科シモツケ属の落葉低木。中国・日本原産。花期は3~5月、直径8mmほどの白い小さな花を、葉が開く前に咲かせる。花弁は5枚で、1枚の大きさは2mm程度。6月頃、5個ずつ集まった果実をつける。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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