こんにちは。俳人の森乃おとです。
初夏から梅雨にかけての瑞々しい季節。センダン(栴檀)の樹が、若葉を繁らせ淡紫色の花を咲かせています。樹木全体を覆うように小花が集まって開花する様子は、まるで紫の雲がたなびいているかのよう。花にはバニラやチョコレートのような甘い香りがあり、小鳥やアゲハチョウなどの集まる姿がよく見られます。

「栴檀は双葉より芳し」とは白檀(びゃくだん)のこと
センダンの古い呼び名をオウチ(楝・樗)といい、万葉の昔から明治時代まで親しまれてきました。名前の由来は花の色からで、淡い藤色をしていることから「あはふぢ」と呼ばれ、それが「あふち」に変化しやがて「おうち」になったともいわれます。
また、センダンの名は「栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し」ということわざで知られています。優れた才能を持つ人は、幼い時からその能力が外に現れるという意味ですが、実際にはセンダンの若葉には匂いがありません。これはインド・南太平洋地域原産で香木として名高い常緑樹のビャクダン(白檀)と混同されたためです。そのビャクダンにしても、香るのは幹の部分であって、若葉が特に香ることはないそうです。

清少納言『枕草子』37段「木の花は」より
オウチ=センダンは、センダン科センダン属の落葉高木。ヒマラヤ山麓原産で、中国や台湾、そして日本では伊豆半島以西の暖かい地域に分布します。樹高は5~30mにもなり、街路樹や公園樹などとしてよく植えられています。
特徴的なのは葉の形で、2回分裂を繰り返し(2回羽状複葉)、100枚以上の小葉に分かれます。それぞれの小葉は長さ3~6㎝あり、本来1枚の葉であるものが50㎝を超える大枝のようになります。

花期は5~6月。花は5弁で長さ1㎝足らずと小さめです。表が白で、裏は淡紫色。10本の雄しべの花糸が1つに合わさって赤紫色の筒となり、中央から突き出します。そして多くの小花が集まり、長さ20㎝ほどの見事な円錐状の花序をつくります。
ちなみに日本の伝統色の一つ「楝(おうち)色」は、やや青みがかった淡い紫色。女房装束などの襲の色目(かさねのいろめ)の名でもあり、表は薄い紫、裏は青とも。
平安時代の才女・清少納言は「木の形は良くないけれど、楝(おうち)の花はとてもきれい」と愛で、「他の花とは様子が違って咲き、必ず五月五日(端午の節句)に合わせるように咲くのも趣深いわ」と感嘆しています。

薬効高く「薬玉」(くすだま)の材料に
オウチの樹皮や果実は、駆虫剤や鎮静剤となり、香りがよいオウチの花は、旧暦端午の節句(新暦では6月上旬頃)に薬玉(くすだま)を作る材料にもなりました。
薬玉は平安時代に中国から伝わった風習です。雨の多い季節の邪気払いとして、錦の袋にじゃ香、丁子などの香料や、ショウブ、ヨモギ、タチバナ、オウチなどの匂いが強い葉や花を詰めて糸を垂らし、柱に掛けて、無病息災を祈りました。

万葉歌人たちの心を捉えたのは、はらはらと散り始めるオウチの花の美しさです。憶良の和歌の歌意は「妻が親しんできたオウチの花は散ってしまったようだ。私の流した涙がまだ乾いていないのに」。
憶良が筑前守だった時に、上官である太宰帥(九州全体を統括した大宰府の長官)として、やはり万葉歌人として名高い大伴旅人(おおとものたびと)が赴任してきます。旅人の妻が亡くなった際、憶良は旅人の気持ちになり代わって「日本挽歌」と題する長歌と5首の反歌を詠み、献呈します。その反歌の一つです。
俳聖・松尾芭蕉(1644 -1694)の句は、雨雲がどんみり(どんより)と垂れ込めているなかに咲くオウチの花を詠んでいます。「花曇り」は通常、春のサクラに使いますが、芭蕉はこの句で意識的にオウチの花の雰囲気と重ね合わせ、対比させています。

気品があり美しい花を咲かせるセンダンですが、花言葉は意外にも「意見の相違」。由来は確かなことは分かりませんが、花びらの外側としべ(雄しべと雌しべのこと)のあたりが紫色で、花びらの内側が白いから。センダンはビャクダンと取り違えられることが多いから、とも言われています。
センダン(栴檀)
学名Melia azedarach
英名chinaberry
オウチ(アフチ、楝、樗)は明治時代まで使われた古称。センダン科センダン属の落葉高木。
ヒマラヤ山麓原産。中国、台湾、日本の伊豆半島以西に自生。樹高は5~30m。葉は2回羽状複葉。花期は5~6月。実は有毒。種は削ってソロバンの珠に。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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