こんにちは。俳人の森乃おとです。
梅雨が明けると、ハス(蓮)の花が一つ、また一つと開いて見頃を迎えます。水面のはるか上で円い葉が連なって風に揺れ、その間から花茎を高く伸ばし、ピンクや白の大柄の花をつけて咲き競う情景は、息を呑むほどの美しさです。ハスは「極楽浄土の花」といわれますが、まさに天上の世界に迷い込んでしまったかのように魅了されます。

ハス(蓮)は、ハス科ハス属の多年草で、インド原産。非常に古い被子植物で、1億年以上前の中生代白亜紀の地層から化石が出土しています。
ハスの実は硬い殻に守られ、長い間地中に埋もれていても発芽力を保ち、条件が整えば芽を出すことがあります。千葉市で丸木舟と一緒に発掘された約2千年前の大賀ハスや、埼玉県行田市で出土した行田ハスなどが有名で、「古代ハス」と呼ばれます。

ハスの開花期間は短く、4日間ほど。夜明けとともに開花し、昼には閉じてしまいます。その開閉を繰り返し4日目には、夕方まで咲き続けて散っていきます。
虚子の句のように、紅蓮白蓮が水面に咲きそろう光景を目にするには、早起きしなければなりませんね。

「ハスは泥より出でて泥に染まらず」――。11世紀、中国の儒学者・周敦頤(しゅう・とんい)は、ハスが汚れた泥の中に育ちながらも、気高い美しさを保っていることを、こう賛美しました。親鸞(しんらん)もハスを仏教の理想そのものとみなしました。
また、ハスの花は形が円形に整い、昼には閉じて朝に再び開くことから、さまざまな宗教で、太陽や再生・創造の象徴とされました。極楽浄土は聖なるハスの花にあふれ、仏たちもヒンズー教の女神たちもハスの花に座していると考えられました。

平安時代前期の「古今和歌集」の夏の部に収録された、六歌仙の一人、僧正・遍照の和歌です。ハスの美しさで賛美されたのは、花だけではありません。ハスの葉の表面に降りた露が、吸収されずに転がり続け、常に清浄な状態を保っていることも、古代から注目されていました。葉の表面が撥水(はっすい)性の強い物質の細かな突起で覆われているためです。現代では「ロータス効果」と呼ばれ、さまざまな分野で応用されています。

歌の意は「ハスの葉は濁りに染まらない心を持っているはずなのに、どうして露を玉だと偽るのでしょう」。別にハスが嘘を言っているわけではありません。それほど、ハスの露が美しく見えることを、難じるふりをして讃えているのです。
花も地下茎も葉も実も、全草が食用に
葉が枯れ落ちた秋から春にかけ、ハス田を掘り返すと、長く連なった地下茎が採れます。いわゆる蓮根(レンコン)で、歯触りがよく、澱粉質に富みます。花は径20~25㎝、20枚ほどの花弁からなります。中華料理で使う陶製のスプーンを蓮華(れんげ)と呼びますが、まさにハスの花弁を模したものです。

花弁を載せていた花托(かたく)は、花が散った後、穴だらけの蜂の巣のように見えます。このため、古代に「ハチス」と呼ばれていたのが、縮まってハスという名前になったといわれます。


穴の中には、長さ2㎝ぐらいの楕円形の実ができます。ほんのりと甘く、栄養分に富み、お菓子などの料理に使えます。直径50㎝もある大きな葉は、刻んでご飯に混ぜたり、ご飯を巻いて粽(ちまき)にしたりします。

花言葉は「清らかな心」「神聖」「雄弁」「離れゆく愛」
ハスは、同じ水生植物のスイレン(スイレン科スイレン属)と花や葉の形が似ているため、混同されがちです。ハスとスイレンを見分ける一番のポイントは、花と葉のつき方。ハスは花も葉も、水面から高く伸ばした茎の先につけますが、スイレンは花も葉も水面に浮かべます。また、スイレンの葉には中心まで達する深い切れ込みが1つありますが、ハスの葉は真ん丸で切れ込みがありません。

ハスの花言葉のうち「清らかな心」と「神聖」は、汚れに染まらない気高さから。「雄弁」は、ハスの花を捧げられたエジプトの太陽神オシリスが、話上手であったという言い伝えから。一方「離れゆく愛」という悲しい花言葉もあります。開花時間が短く、花弁が一枚また一枚と散っていく儚さから生まれました。


泥の中から芽を出して、まっすぐに立ち上がり、華麗な花を咲かせるハスの花。そのあえかな美しさに、人間は夢と希望を託してきました。「蓮といふ 泥中を出て 淡きもの」と詠んだ俳人・藤田湘子(ふじた・しょうし/1926~2005年)の句は、「淡きもの」とハスを表現することで、人々の切なる願いを伝えてくれます。
ハス(蓮)
学名Nelumbo nucifera
英名Lotus
ハス科ハス属の多年草。インド原産。花期7~8月。草丈50~100㎝。花色はピンク、白。黄色い花色のものは北米大陸原産で、キバナバス。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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