おはようございます、こんにちは。ライターの藤田華子です。
すいかの匂いに、セミの声、まばゆい入道雲ーー。夏って、みずみずしい情緒があちこちにあふれる季節だと思います。
今日は、そんななかでもとびきり夏を象徴するアイテム、線香花火のお話です。

日本発祥の線香花火は、江戸時代に作られました。
”線香”という名がつくようになった理由は、約300年前・1748年に描かれた西川祐信作『絵本十寸鏡』から伺えます。そこには、縁側で、女性たちが香炉に花火を挿して遊ぶ様子が描かれています。当時、藁の先に火薬をつけ、香炉や火鉢の灰にそれを立てて鑑賞するのが流行っていました。現代でたとえると、お誕生日ケーキに刺さっている花火、そんなイメージでしょうか。それがお仏壇に供える線香のように見えるので、“線香”花火と呼ばれるようになりました。

ところが、日本発祥の線香花火が日本で作られなくなった時期もあったのです。
かつて日本全国にいた線香花火の職人さん。特に福岡や愛知、長野は花火の名産地でした。花火職人の仕事は多岐にわたりますが、メインは自分で構想した花火を、火薬を配合して造り上げ、打ち上げること。どこでどう打ち上げるかなどの交渉も含まれる場合が多いそうです。大空に大輪の花を描くなんて、ロマンチックなお仕事ですよね。

でも、線香花火の作り手は1970年代から徐々に減っていきました。低価格帯の外国産の線香花火が増えてきたのです。そしてついに、1998年、福岡にあった最後の一社が廃業。国産の線香花火はなくなってしまいました。
その事態を受け、立ち上がったのは東京の蔵前にある玩具問屋・山縣商店の山縣常浩さん。「江戸時代から続く日本の線香花火をなくしちゃいけない」と、ゼロから3年かけて国産線香花火を復活させたのです(ここには熱いドラマがあるので、詳しく知りたい方はぜひ検索してみてください)。
国産線香花火は、職人さんが一本一本手仕事で作るものなので、外国産のように安価ではありません。なかには、桐の箱に入り、40本で1万円(!)という最高級品も。私も贈り物でいただいたことがあるのですが、火花が空中を悠々と泳いでいるようで、いまもその閃光が目に焼きついています。

線香花火には、たった十数秒で消えていくなかにまるで人生のような物語が込められています。
蕾:着火してすぐ、火球が震えているころです。
牡丹:火球が破裂し、力強く火花が飛び出す段階。華やかに咲き誇る牡丹の花びらになぞらえています。
松葉:シュンシュンと、まっすぐな火花が四方八方に激しく飛び出すころ。針葉樹の松葉のようです。
柳:勢いは衰えて、シダレヤナギのように火花は垂れて飛び散ります。
散り菊:最後に、消える直前の様子です。花びらをひとひらずつ落とす、菊の花にたとえています。

線香花火が散り、花火を終えて家に入る時。
すーんと寂しい気持ちになったら、思い出してほしい詩を紹介して終わりにします。寺山修司さんの詩です。
さみしいときは 青 という字を書いていると落着くのです
青 青 青 青 青 青 青 青 青
青 青 青 青 青 青 青 青 青
『寺山修司少女詩集』より
夏は線香花火のようにあっという間です。
どうかみなさんの夏が、香ばしく楽しいものになりますように。

藤田華子
ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。
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