こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
野山の8月は、セミの声ばかりで鳥がほとんど鳴かない時期です。ですから、山へ行ってもあまり鳥に出会えないので、私は海辺へ出かけます。8月の海辺は、強烈な日差しで夏真っ盛りですが、潮干狩りでお馴染みの干潟には、北極で子育てを終えたシギやチドリといった鳥たちが、早くも渡りの途中に姿を見せ始め、だんだんと賑やかになってくる時期なんです。干潟の鳥は、一カ所にいろいろな種類が集まって見られるので、1羽ずつ丁寧に見ていくのが楽しみ。その中に、ひときわ足の長い鳥がいます。それが今回紹介するセイタカシギです。

セイタカシギは、全長37cmほどのすらっとしたスタイルの水鳥。熱帯や温帯地域を中心に、ほぼ世界中に分布する鳥で、干潟や湿地、水田、湖沼などの水辺で暮らしています。この時期に、干潟で見られるシギやチドリの多くは渡り鳥ですが、セイタカシギは一年中日本で見られる留鳥です。
一番の特徴は、なんといってもピンク色の長い足。なんだかちょっとバランスがおかしいのではと思えるほどの長い足をしています。それもそのはずで、全長に対する足の長さの割合は、約1万種いる世界の鳥の中でフラミンゴの次といいますから、世界トップクラスなんです。セイタカシギという和名は、背高のっぽのシギという意味ですが、厳密にはシギの仲間ではなく、セイタカシギ科という別の鳥のグループに属します。

この世界トップクラスの長い足は、もちろん美脚を自慢するためではありません。水の中へ歩いて入るのに必要なのです。セイタカシギの食べものは、水中の小動物や藍藻類などで、水を歩きながら爪楊枝みたいな細長いくちばしでつまみとって食べます。このとき長い足だと、浅い場所から深い場所まで広範囲に歩き回れるので非常に便利なのです。
セイタカシギは、“水辺のバレリーナ”という愛称で呼ばれる事があります。長い足で水辺をせわしなく歩きながら採食する様子が、なんだかバレリーナが踊っているように見えることから、こんなかわいらしい愛称がついたのでしょうね。また、水辺の貴婦人なんていう愛称もありますが、こちらはすらっとした清楚なたたずまいがそう連想させたのかもしれません。ただし、雌雄ほぼ同色なので見分けにくく、オスでも貴婦人になってしまうのはご愛敬といったところでしょう。

かつてのセイタカシギは、日本では大珍鳥でした。60年くらい前の鳥類図鑑には、迷ってきた鳥がごく希に見られるに過ぎないとさえ書いてあります。それが1975年に愛知県で初めて繁殖が確認され、それ以来、東京湾沿岸や愛知県の海岸部で一年中見られる鳥になりました。また、近年は、移動中のセイタカシギが日本のあちこちの湿地に現れるようになり、あまり珍しい鳥ではなくなっています。

そんな珍鳥がなぜ、日本に定着し子育てを始めたのでしょうか? おそらくそれは湾岸地域の開発に関係があります。1970年代といえば、日本は列島改造ブームで次々と湾岸地区に埋立地ができた時期です。広大な埋立地には、雨水が貯まって淡水の浅い池があちこちにできました。その池にセイタカシギが生息するようになったのです。

セイタカシギは、もともと荒れ地にできる淡水の池に営巣する鳥で、埋立地にできた池はまさに同じ環境なんです。それ以前の日本にはそのような環境がなかったので、セイタカシギはときどき現れてはスルーしていたのですが、開発によって繁殖に適した場所ができ、定着したのでしょう。開発が新しい鳥を呼ぶなんて、ちょっと意外な感じがします。

ところが最近では、開発が少なくなり埋立地の池はあまりできなくなってしまいました。この状況ではセイタカシギがまたいなくなるかと思いきや、ハス田や野鳥公園の池などで繁殖する鳥が出てきました。おそらく日本生まれの鳥が新たな生息可能なところを見つけ出しているのではないかと思うのです。

これからの時期、大きな川の河口や海岸近くの池などに幼鳥をつれた家族が集まり、群れとなって生活するので、一度にたくさんのセイタカシギが見られる機会が増えます。また、若鳥が日本各地の水辺に姿を現す時でもあるので、思いがけない場所でもこの優雅な水辺のバレリーナに出会えるかもしれません。ぜひ、注意して見てくださいね。

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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