ひやむぎ

旬のもの 2022.08.26

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。夏には喉越しの良い麺が食べたくなる! 今回は「ひやむぎ」についてのお話です。

西日本ではひやむぎの知名度が低いと言われている。実際、私はひやむぎを食べたことがなかった。「うどんの日」や「そうめんの日」はあっても「ひやむぎの日」という記念日がないように、どちらかというとマイナーな乾麺のように思う。

ひやむぎ派の友人にその魅力を聞いてみると、そうめんよりも食べ応えがあるのが良いという答えが返ってきた。
ひやむぎとそうめんは何が違うのか調べてみると、材料は同じであることが分かった。
大きく違うのはその太さだという。ひやむぎは1.3mm~1.7mmまでとされ、それより細いものがそうめん、それ以上がうどんと規定されている。

元々は、製法でも違いがあったようだ。小麦粉を塩水でこねて生地を作り、油を塗りながら手を使って細く延ばすのが「そうめん」で、平らな板と麺棒を使って生地を薄く延ばし、刃物で細く切る麺が「ひやむぎ」や「うどん」とされていたという。
しかし、機械麺が生まれてからは、ひやむぎの製法で作られたそうめんや、手延べ製法のひやむぎも出てきており、現在は製法では分類しづらいらしい。

手延べというと、私は贈り物などでいただく「古物(ひねもの)」のそうめんが大好物だ。そうめんは冬に製造されるが、梅雨の時期を1度越すと新物と呼び、2度越すと古物、 3回越すと古古物(こひねもの)や大古物と言われる。
古物は新物のそうめんに比べてコシが強く、 のびにくくて味わいがあり、高級品として贈られることもある。

材料が同じで、手延べでもひやむぎが作られているのなら、ひやむぎにも「ひね」があるのではないだろうか。私は早速商品を検索してみたのだが、どんなに探しても「ひねのひやむぎ」を見つけることはできなかった。
どうしても気になった私は、手延べそうめんの会社の方に聞いてみることにした。

親切に教えていただいたところによると、太さの違いがポイントとなってくるという。
手延べ製法では引き延ばす際に、乾燥で麺が切れないよう、表面に油を使う。そのため出来上がった麺は保存する上で酸化のリスクがあり、保存状況によってはにおいを伴うことがあるそうだ。

ひやむぎはそうめんに比べて太さがある分、酸化臭が気になりやすくなるという。
また、麺を置いておくと、徐々に麺の中の水分量は減っていく。1%程度の差らしいが、茹でる際にそうめんは1分半前後と大差ないものの、ひやむぎの太さになると、通常の湯で時間よりも3〜4分の差が出てしまうそうだ。

以上のようにひやむぎは、置いておくことによるデメリットの方が多い。そのため、そうめんの賞味期限は3年半程度だが、ひやむぎの賞味期限は1年半程度としているという。
以上の理由から、ひやむぎは「ひねもの」の商品は用意していないということだった。

ひねが無いのは少し残念だったが、担当の方に色々教えてもらって、私はひやむぎに俄然興味が湧いてきたのだった。

近所のスーパーを回ってみると、2軒目で手延べ麺が置いてある店を見つけた。やはりそうめんの方が種類が多く置いてある。その端に、ひっそりとひやむぎがいた。
1束買って、家で湯がいてみた。そうめんなら茹で時間は一瞬だが、買ったひやむぎの湯で時間は6分。待っている間に、茄子とししとうを揚げ、ネギを切りながら茹で上がるのを待つ。
器に盛り付けられたひやむぎは、緑とピンクの麺が彩りがあって涼しげだ。

食べてみると、そうめんともうどんとも言い難い、ちょうど良い満足感がある。ツルツルと食べやすい。
太さがある分、にゅうめんのような温かい調理法でものびにくいだろう。様々な料理を試してみても面白そうだと思いながら、初めてのひやむぎを堪能したのだった。

しかし、ひやむぎは漢字で書くと「冷麦」であり、夏に冷たくして食べるイメージが強く、寒くなると売れないため、売り場から姿を消してしまうこともあるらしい。
まずは夏のひやむぎを楽しみ、冬用に買いだめしておくのもありかもしれない。
次に店でひっそりと並ぶひやむぎを見つけたら、「わたし、あんたのこと知ってるで」と自慢げに手に取ってみたい。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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