つみれ

旬のもの 2022.10.29

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。急に寒くなり、あたたかい料理が恋しくなる日々になりました。今日は「つみれ」についてのお話です。

私にとっての「つみれ」といえば、北海道で食べた「さんまのつみれ汁」だ。
北海道に行ったら必ず立ち寄る回転寿司屋には、さまざまな魚介の汁物が6〜7種類もある。どれも美味しいのだが、何故か私はこのつみれ汁に惹かれ、毎回頼んでしまう。

さんまの味と旨味をしっかり感じられるように、粗めに叩いて作られたつみれが5つくらい、ごろごろと豪快に入っている。さらに人参やごぼう、豆腐と具沢山だ。トッピングには白髪ネギと三つ葉が飾られて、彩りもよろしい。
お寿司を食べに来たはずなのに、これだけでお腹いっぱいになってしまう。様々な食材の旨味が閉じ込められた温かいつみれ汁は、北の大地で凍えた身を、そして心までもじんわりと満たしてくれるのだ。

「つみれ」とは、魚を叩いて団子にしたもののことだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
つみれは、「摘み取って入れる」という動作を表す言葉「摘入(つみいれ)」が語源とされているという。魚介のすり身を調味料としっかり混ぜ、事前に団子にせず一口大に摘み取りながら熱湯やだし汁の中に入れたものを「つみれ」と呼ぶ。魚介に限らず、鶏肉や郷土料理によっては小麦粉やご飯のつみれもあるそうだ。

一方でタネを整形してから調理するものが「つくね」。こちらは「手でこねて形を作る。手でこねて丸くする」といった意味をもつ言葉、「捏ねる(つくねる)」が元になっているそうだ。
串に刺した棒状や平たい丸であることもあり、大きさや形に決まりはないらしい。

どちらも江戸時代に誕生した料理だという。こんがらがってしまいそうだが、その語源に注目すると分かりやすい。

つみれは、新鮮な魚介類を手早くすり身にすることで保存性を高めることができて、数日はもつ。冷蔵庫のない時代に少しでも長く保存でき、美味しく食べられる料理の一つとして生まれたといわれている。
自分で作るには、魚をおろしてさらに皮もとってすり鉢ですって…となかなか手間がかかる。まな板などの道具に魚の匂いが付いてしまうのが苦手で、私は挑戦したことがない。実家でも食卓に並ぶことのなかった料理だ。

こういう手間のかかる料理に触れると、作るには億劫に感じる反面、「シンプルに食べても美味しいものもや、現代ではそこまでしなくてもいいものを、人間はあれこれ料理して食べたくなるのって面白いなぁ」とその料理への興味が湧いてくる。

手間というのは、それに対して労力や時間をかけるということだといわれるが、そこだけでなく、作る「手」と目の前の「食材」との間に生まれてくるものを、私たちは「美味しい!」というカタチで自然と受け取っているのではないだろうか。
あの寿司屋で、数ある汁物の中から、つい私がつみれ汁を選んでしまうのも、「自分で作るのが面倒な料理だから」というだけではない気がするのだ。

今は、成形されたつみれも手軽に買える。由来の通り摘み取れるよう、冷凍されたすり身も販売されているので、気軽に作ることもできる。つみれは「日常の料理」という手旗を振って、コチラを見ているのかもしれない。
「まずは、すり身から…?いや、一から作ってみるか…?」と、私も「つみれ」に手を伸ばし始めているようだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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