燗酒かんざけ

旬のもの 2022.11.16

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おはようございます、こんにちは。ライターの藤田華子です。

だんだんと寒くなってくるこの季節、私は「あそこに帰りたいなあ」と思い出す居酒屋さんがあります。
あれは-15℃、極寒の北海道・旭川。お酒好きな方はご存知かもしれませんが、旭川には全国的に有名な「独酌 三四郎」という炉端居酒屋があります。『孤独のグルメ』でも紹介されたお店で、大将と割烹着を着た女将さんが切り盛りし、地元の方が集まるあったかい場所です。寒さで縮こまった心身が、一歩お店に入っただけでほぐれたのを覚えています。

どれも美味しそうで何を頼もうか悩んでいると、女将さんが「寒いからお燗にしましょうか。うちのは炭火で温めます」と提案してくださったんです。炭火でお燗を作るなんて!風流さに感激しました。箸袋に手書きで書かれた「希望」「感謝」の文字、こっくり温められたお酒の湯気…後にも先にもない極上の居酒屋体験で、私はしばらく箸袋を手帳に挟んで過ごしたほどです。

写真提供:藤田華子

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今日は燗酒(かんざけ)についてです。

夏はキリッと冷酒で、冷奴やきゅうりの浅漬けをつまんで。冬はしっぽり熱燗で、炙ったししゃもを…温度を変えて表情の変化を楽しむお酒って、世界的にも珍しいそうです。四季があり、繊細な移ろいに美を見出す日本らしい。
日本酒を温めることは、「燗をつける」と言います。「女将さん、燗をつけてください」なんて、さらりと言えたら格好いいですね。

燗という漢字をあまり他では見ないので意味を調べたところ、あざやか/あきらか/ただれる/くさる/煮崩れるなどの意味を持つそうです。あざやか、あきらかと読むのは、こちらの「日本酒の飲用温度別の呼び方」を見ると納得かもしれません。温度はあくまで目安ですが、味わいがあざやかな変化を遂げていくことがわかります。

5℃:雪冷え(ゆきひえ)
酒瓶も冷えていて、表面に結露がみられる程度。冷たくキリッとした口当たり。

10℃:花冷え(はなびえ)
お猪口にお酒を注ぐとほのかな香り。だんだんと開いていき、香りが広がります。

15℃:涼冷え(すずひえ)
冷蔵庫から酒瓶を取り出し、少し経った状態。とろんとした華やかさを味わえます。

20℃:室温
日本家屋の土間の温度に由来する呼び名です。香り、味わいともに柔らかいのが特徴。

30℃:日向燗(ひなたかん)
冷たくも熱くもない温度。香りが引き立ちます。

35℃:人肌燗(ひとはだかん)
舌で「ぬるい」と感じる程度。お米や麹の香りと味わいを楽しめます。

40℃:ぬる燗(ぬるかん)
私たちの体温よりも少し高めで「あたたかい」印象に。ふっくらと、豊かな香りを満喫できます。

45℃:上燗(じょうかん)
お酒から湯気が立つほど。香りも味わいも引き締まっていきます。

50℃:あつ燗(あつかん)
このあたりになると徳利を素手で持つのが難しく、私はお手拭きで覆ってお猪口に注いでしまいます。
一般的に知られる燗酒。シャープな香りと切れ味を楽しめます。

55℃以上:飛び切り燗(とびきりかん)
お酒の香りが強くなっていき、辛口に感じます。

熱燗=温めた日本酒と思われがちですが、正確には50℃前後の日本酒のことなんですね。燗酒にしたほうが美味しいお酒、逆に冷やのほうが本領発揮するお酒…さまざまなので、酒屋さんや店員さんにオススメを聞くことにしています。

「よし、今夜は燗酒だ!」と気持ちが高まったあなたへ。おうちでもできる作り方をご紹介します。

①直火燗
ホットミルクのように、お鍋に直接日本酒を入れて温める方法です。私もやってみたことがありますが、温度のムラができやすく、アルコールが飛んでしまって苦戦しました。大量に作りたい場合はいいかもしれませんが、本来の味を楽しみたい場合は不向きです。

②コンロで湯せん燗
少し手間がかかりますが、居酒屋さんで教えていただいた方法です。徳利に日本酒を入れ、お湯を張った鍋で温めます。お湯の量は徳利が半分ほど浸かるほどで、温度は80℃程度が適温だそうです。徳利の底に手を当ててみて、少し熱いなと感じるのが飲み頃だそう。この時、おちょこを徳利の上にかぶせて一緒に温めるとより美味しくいただけます。

先にも述べたよう、お酒によって美味しい温度は変わってきますから、お好みを探してみてくださいね。それに電子レンジでカップごと温められるワンカップだと、とってもお手軽に燗酒を楽しめます。

冬、外から震えて帰ってもあの一杯が待っていると思ったら何だか幸せな気持ちに。ぜひ旬の味覚を、美味しいお酒と一緒に満喫してみてください。もちろん、飲み過ぎにはお気をつけて。

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藤田華子

ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。

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