ダリア

旬のもの 2022.11.24

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

ダリアは世界中で「花の女王」として愛され、日本でも夏から秋にかけての花壇の主役として親しまれてきました。一時期、姿を見る機会が減ったように感じていましたが、より華やかで個性的な品種が新しく生まれ、あるいはこれまで身近ではなかった原種に近い巨大なダリアの人気が高まるなど、再び人々を魅了しています。

世界で一番品種の数が多い花

ダリアはキク科ダリア属の球根性の多年草の総称です。原産地は、同じキク科のコスモスと同様、メキシコの高原地帯。ヨーロッパに渡ったのは1789年、フランス革命が起きた激動の時代です。花が大きく存在感があるので注目され、各国で熱心に品種改良が行われました。その結果、今日までに3万以上の品種が生み出され、世界で一番種類が豊かな花と言われます。

キク科植物なので、1枚の花弁のように見えるものが独立した小花で、舌状花と呼ばれます。それが8~200枚集まり、花茎の先に1つの頭状花を作ります。

花の色は白、ピンク、オレンジ、赤、黄、紫、青の7色。花の咲き方は一重、八重、ポンポン咲き、カクタス咲きなど10数種類もあり、花の大きさは径3㎝以下~30㎝以上までの6段階、草丈も50㎝~150㎝以上の6段階に分けられます。

日本には江戸時代末に「天竺牡丹」として伝来

日本には江戸時代末期の1842年に渡来。花の姿がボタンに似ていて、オランダ領インドを経由して来たため、「テンジクボタン(天竺牡丹)」と名付けられました。「天竺」とはインドのこと。けれどもこの創作和名はほとんど使われず、やがて属名の学名「Dahlia(ダリア)」が和名代わりに。学名は、スウェーデンの植物学者でリンネの弟子のアンデシュ・ダール(Anders Dahl / 1751~1789年)の名前にちなみます。

君と見て 一期(いちご)の別れする時も ダリアは紅(あか)し ダリアは紅し――北原白秋(「桐の花」/1913年)

ダリアは日本において、明治時代から大正時代・昭和初期にかけて大流行し、広く愛好されました。上にあげた短歌は、詩人・歌人として名高い北原白秋(1885-1942年)が、第一歌集「桐の花」にて発表した1首です。白秋は1912(大正元)年、今でいうDV(家庭内暴力)に苦しむ隣家の人妻に同情して恋仲になり、その夫から姦通罪で告訴され、入獄します。その時の彼女への激しい思慕を、赤いダリアにこと寄せて詠いました。

黒いダリア「黒蝶」が危機を救う

ダリア愛好家や園芸家でつくる「日本ダリア会」の会報によると、「住環境や好みの変化により、1970年代になるとダリアの人気が急速に衰え」たそうです。その危機を救ったのが、1990年代半ばに開発された黒いダリア「黒蝶(こくちょう)」。

秋田の「国際ダリア園」の育種家、鷲澤幸治氏が生み出したダリアのひとつで、暗黒の中からワインレッドの深い花色が浮かび上がる姿は神秘的。「黒蝶がダリアの素晴らしさを再認識させ、新たな利用も切り開いた」とされます。

皇帝ダリア 畏(おそ)るるもののなき高さ――片山由美子

ところで立冬を過ぎる頃、木質化して茶色になった茎を5~6m近い高さまで伸ばし、薄いピンクの大きな8弁の花をたくさん咲かせている植物を最近目にするようになりました。木のようにも見えますが、花はダリアに似ているなと首をかしげていると、これがその通り、ダリアの仲間なのです。

やはりメキシコなど中南米原産で、英名はTree dahlia(ツリー・ダリア)。和名は「木立(コダチ)ダリア」あるいは「キダチダリア」ですが、学名「ダリア・インぺリアリス(Dahlia imperialis)」の「imperialis(皇帝の)」から、「皇帝ダリア」という名前の方が一般的になってきました。

一般のダリアとの違いは、大きさのほかに花期。通常のダリアは6月~10月に咲きますが、皇帝ダリアは晩秋から初冬に咲き、花が少なくなる季節を美しく彩ります。現代の俳人・片山由美子氏の句は、澄んだ青空にまで届きそうな高さに花を咲かせ、威風を放つ姿を見事にとらえています。

ダリアの花言葉は「栄華」「気品」「あふれる喜び」など

ダリアはかつて、アステカ帝国(メキシコ中央部に栄え、スペインに征服され16世紀に滅亡)において、神聖な花として栽培されていたといわれます。花言葉は「栄華」「気品」。

フランス皇帝ナポレオンの妃ジョゼフィーヌはバラの収集家として有名ですが、新来のダリアを愛したことでも知られています。ジョゼフィーヌは大切にしていたダリアが盗み出され、よその庭で美しく咲いているのを見て、ダリアへの興味を完全に失ったと伝えられています。そこから「移り気」という花言葉も生まれました。「あふれる喜び」と「不安定」は、渡来した年に起きたフランス革命にちなみます。

皇帝ダリアの花言葉は「乙女の真心」と「乙女の純潔」。皇帝ダリアは野生種に近く、花色もピンクほか紫・白で、ほとんどが一重咲きのまま。国や時代を越え、花姿を大きく変えて愛され続けたダリアですが、寒さに向かう季節に、空の青を透かして気高く花を開く皇帝ダリアには、ひときわ励まされる思いです。

ダリア

学名: Dahlia
英名: Dahlia
原産地: メキシコ、グアテマラ
キク科ダリア属の多年草の総称。草丈50㎝~6m。葉は羽状複葉で対生。花期は6月~10月。皇帝ダリアは11月~12月。花径3~30㎝。花は一重または八重で、花色および花姿もさまざまです。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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