こんにちは、料理人の庄本彩美です。正月疲れを引きずって体調を崩しがちな時期ですので、ゆっくりお過ごしください。今日は「ぶり大根」についてのお話です。
正月といえば三が日がメインに感じられるが、実は半月ほどかけて日常へ移行していく。私の実家では、7日に「七草粥」を食べ、12日ごろ宮司さんが家内安全や豊作を祈願する「おひまち」という行事がある。14日には「どんど焼き」が行われ、年末に祖母が作ったしめ縄、鏡餅のもろば(ウラジロ)と、子どもたちが書いた書初めが庭で燃やされる。空に舞う火の粉をぼんやりと眺めながら、お祭りの日々だった正月の終わりを感じていたものだ。
日の光に次の季節の気配を感じつつ、ゆっくりと動く1月の様子が好きなのは、子どもの頃にこのような思い出と共に過ごしてきたからなのかもしれない。
実家では、この時に焼いた鏡餅を翌日にお粥に入れて食べたり、庭の実のなる木につけて豊作を祈ったりして正月の行事を終える。
地域によって、この半月の過ごし方は様々だが、1月1日を「大正月」というのに対し、締めくくりの行事が行われる14〜20日ごろを「小正月」というそうだ。
この小正月を「骨正月」と呼ぶ地域がある。実はこの骨正月に「ぶり大根」が関係しているのだという。
京都に来てから、ぶりがおせち料理の一品になることを知った。「年取り魚」や「正月魚」などといわれるそうだ。
神様へのお供え物として特別だった魚を、めでたい日に食べる習わしから来ているらしい。大まかに西日本では塩ぶりが、東日本では塩鮭(荒巻鮭)が年越しのご馳走とされる。
昔は流通が発達していなかったため、獲ったぶりを日持ちさせるために塩蔵加工が施された。運搬や保存の間にうま味が凝縮されていくのだそうだ。塩漬けほどに塩辛くない伝統の塩加減は、なんとも絶妙らしい。今でもその製法は残っているようだが大変貴重で、一切れでなかなかいいお値段で売られている。それでも一度くらいは味わってみたいものだ。
昔はこの塩漬けしたぶりを、年末に丸々1匹買い、まずは切り分けたものを歳神様にお供えしたり、おせちの一品として食べたりしていたのだという。
残った身を少しずつ削いで食べていくと、1月半ばにはちょうど魚の骨やアラが残るそうだ。
それを根菜などと一緒に、ぶり大根などにして、骨になるまで食材を大事に食べ尽くすのだそう。このことから「骨正月」とも呼ばれているのだという。
正月祝いを締めくくる料理として、ぶり大根が一役買っていたのだ。
「ぶり大根」といえば、うちでは母の定番の家庭料理でもあった。味のしみた大根は、ぶりよりもこちらが主役ではないかと思われるほど、旨味豊かに仕上がっている。翌日に寒さで固まった煮凝りは、熱々のご飯に乗せて食べるのが密かな楽しみでもあった。それがいつしか、自分で作るようになると、食べやすさや、ぶりを沢山食べたい気持ちが優先して、身を買って食べることが増えていったように思う。
何気ない料理の物語を知ると、たちまち日々の家庭料理にも奥行きが出てくる。
骨正月は既に終わったが、うちの冷凍庫の中には、正月のお餅がまだ残っている。
今日は久しぶりに、魚屋でぶりのアラを買ってこよう。夜ご飯はぶり大根と焼き餅で、ちょっと遅い食べ納めといこう。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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