トビ

旬のもの 2023.02.07

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田です。
2月に入ってから早くも1週間。つい先日、新年のご挨拶をしたかと思ったら、あっという間に節分も終わりです。お正月に見かけた凧揚げも昨日のことのようですが、もうひと月も前のことなんですね。

さて、そんなお正月に見た凧。英語ではKite (カイト)です。今回紹介するトビも英語名はカイト。命名は鳥の方が先で、空に揚がる凧の姿がトビ(カイト)にそっくりなので、凧もカイトと呼ばれるようになったのだとか。じゃあ、カイトの語源は何かと調べてみたら、「キーキー」と聞こえる鋭い鳴き声が由来だそうです。

日本では、トンビと呼ばれる事が多いですね。でも、正しい和名はトビ。いつ見ても飛んでいることが名前の由来だそうです。「鳶が鷹を生む」という諺がありますが、馬鹿にしてはいけません。この名前は奈良時代にはあって、日本書紀には神武天皇の軍勢が金色のトビに助けられたという話があるくらいの、けっこう偉い鳥なんです。もちろん、トビは立派なタカの仲間。分類はタカ目タカ科に所属します。

写真提供:柴田佳秀

トビは、ユーラシア大陸やアフリカ、オーストラリアに広く分布し、日本では北海道から九州、トカラ列島まで一年中生息している鳥です。それより南の島々では、冬に少数が見られるに過ぎない感じです。全長はオスが約59cm、メスが約69cmとメスの方が一回り大きく、翼を広げた長さは最長1m50cmにもなりますから、かなり大きな鳥です。

その割には体重は1kgを切り、軽量なんです。同じくらいの翼長のクマタカは3kgを越えるので、いかに軽いかおわかりになると思います。とにかく、ずっと飛び続ける生活をしているので、軽い方がいいんでしょうね。長い翼と軽い体重は、まさに空中生活に適応していることを示し、トビという名前にふさわしい体つきであると言えるわけです。

さて、そのトビですが、ずっと空を飛んでいるのは、食べものを見つけるためです。主な食べものは、地上の小動物の死体や昆虫、トカゲやヘビなど。あんなに長時間飛んでいても疲れないのかと心配になりますが、長い翼と軽い体のお陰で、翼を広げているだけで飛んでいられるので問題ありません。

のんびりと空を舞いながら、地面に食べられそうな物がないか探しているのです。そして見つけると、急降下して脚でさらう様に食べものを掴み、再び空に舞い上がります。飛行機でいうタッチアンドゴーの要領ですね。

写真提供:柴田佳秀

ずいぶん昔の話ですが、私が湖でワカサギを釣っていたときのこと。釣り上げた魚が針からはずれてしまい、地面に落ちたことがありました。あわてて拾おうとした瞬間、目の前にさっと影が横切りました。なんと1羽のトビにワカサギを持って行かれてしまったのです。確か近くにはトビの姿はなかったのですが、おそらく相当高いところを飛んでいて、めざとく見つけて急降下してきたんでしょうね。あまりの目の良さに呆れて笑ってしまった思い出があります。

トビは市街地や農耕地、河川敷、山の森など、様々な環境で見られますが、なかでもいちばん多く見られるのは海岸や漁港でしょう。海岸に多いのは、波打ち際に漂着物があるから。魚などの死体が打ち寄せられるのを狙って、たくさんのトビが集まってくるのです。また、漁港には魚がたくさん水揚げされますから、そのおこぼれを狙っています。トビといえば、鳴き声の「ピーヒョロロ」が有名ですが、ライバルがたくさんいると牽制し合う感じで鳴きあっている光景を目にします。

前述した「鳶が鷹を生む」の他にも「鳶に油揚げをさらわれる」などの諺や鳶口など、私たちの身近にはトビにまつわる言葉がたくさんあります。それだけ誰もが知っている身近な猛禽類だったのでしょう。かつては東京の都心部でもトビの姿がありました。私が幼いとき、JR総武線の市ヶ谷駅から飯田橋駅間を走行する車窓から皇居の外堀を眺めると、たいていトビが電車と併走するように飛んでいて、私は見るのが楽しみだったのです。

写真提供:柴田佳秀

それがいつしか姿が見えなくなり、東京の空から消えていました。しかし、ここ数年、東京の都心部でも、わずかながらトビが舞う姿を再び見るように。高層ビルを背景に大きく円を描いて飛ぶ優雅な姿が復活したのは、ちょっと嬉しく思います。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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