レンギョウ

旬のもの 2023.03.17

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

春の訪れを祝福するかのように、黄色い花を咲かせる木は、ロウバイ、オウバイ、マンサク、ミツマタ、サンシュユなどたくさんあります。それらの中で最も色鮮やかなのは、太陽のかけらのようなレンギョウ(連翹)の花でしょう。

鈴のような黄金色の花

レンギョウはモクセイ科レンギョウ属の落葉低木で、中国原産。日本にはかなり古い時代に薬用植物として渡来したようです。樹高は1~3mで、花期は3~4月。葉を広げるのに先立ち、枝の両側に花径2~3㎝の、鮮黄色で筒状の合弁花をつけます。先端が深く4裂しているので、正面から見ると4弁花のように見えます。雌雄異株です。

花が咲き終わると、艶々とした長さ3~10㎝、幅2~5㎝の葉が対生して出てきます。花の後には小さな丸味のある実ができ、乾燥させて、解熱、消炎、利尿剤などに使われます。
レンギョウの茎は弓なりに伸びてたわみ、先が地面に着くと、そこからまた根が出ます。栽培しやすいため庭木や公園樹、生垣として植えられます。

英名の「golden bells(ゴールデン・ベルズ)」は黄金色の鈴のような花を咲かせることから。学名は「Forsythia suspensa(フォルシチア・シュスペンサ)」。属名の「Forsythia」は、19世紀初頭に中国から英国にレンギョウがもたらされた時の、王立植物園監督官ウィリアム・フォーサイスにちなみます。種小名の「suspensa」は「垂れ下がる」の意です。

ヤマトレンギョウ(大和連翹)とショウドシマレンギョウ(小豆島連翹)

和名は、「連翹」という漢字表記を音読したもので、古名は「イタチグサ(鼬草)」「イタチハゼ(鼬黄櫨)」。その由来は不明です。奈良時代初期の733年に編纂された『出雲国風土記』には、出雲国(現在の島根県)の9つの郡のうち、「意宇(おう)郡」(現在の松江市)など2郡の産物として、「連翹(いたちぐさ)」の名が記されています。

また、平安時代中期の『延喜式(えんぎしき)』や、辞書の『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』にもレンギョウは記載されています。しかし、本格的に栽培され、一般にもなじみ深い木となるのは、江戸時代以降という説が有力です。

日本には、2種類の固有種が存在すると言われています。岡山県の石灰岩地でまれに見つかるヤマトレンギョウ(大和連翹)と、香川県小豆島に自生しているショウドシマレンギョウ(小豆島連翹)です。

外見は中国のレンギョウとあまり変わりませんが、花期が4~5月とやや遅いのが特徴。この2種は、古代に渡来したレンギョウが帰化したものとも、あるいは固有の原種ともいわれています。

連翹や 黄母衣(きぼろ)の衆の 屋敷町――炭太祇(たん・たいぎ)

レンギョウが積極的に短歌や俳句の題材になるのは明治時代以降。江戸中期の俳人・炭太祇(1709-1771)のこの句は、比較的早くレンギョウが取り上げられた例です。
「母衣(ほろ)」とは矢や鉄砲の弾を弾くために、騎馬武者が鎧の後ろに付けた絹製の大きな袋のこと。鮮やかな黄色に染めた黄母衣の着用を許されたのは、豊臣秀吉の親衛隊だった馬廻り衆だけでした。太祇はかつての馬廻り衆の屋敷跡を囲むレンギョウの垣を見て、華やかな黄母衣を着けた騎馬武者たちが、誇らしげに居並ぶ光景を連想したのでしょう。

ところで、4月2日は詩人・彫刻家の高村光太郎(たかむら・こうたろう/1883-1956年)の命日で、「連翹忌」と呼ばれます。光太郎はアトリエの庭にあるレンギョウをことのほか愛し、花盛りの頃に亡くなりました。告別式ではレンギョウの一枝が折り取られ、棺の上に置かれことに由来します。

レンギョウの鮮やかに咲きいたる庭 今日旅立ちの子らを見送る――鳥海昭子(とりのうみ・あきこ)

鳥海昭子(1929-2005)は山形県鳥海山麓生まれの歌人です。児童養護施設で長年働き、親のない子どもを世話しました。
「レンギョウの――」の一首には、レンギョウが咲き誇る施設の庭から、未来へと旅立つ子どもたちを見送る喜びと祝福の優しい思いがあふれています。ちなみに鳥海昭子の実家は、鳥海山修験の筆頭宿坊「山本坊」。美しい庭があることで知られています。

レンギョウの花言葉は「希望」「期待」。春の卒業・入学シーズンといえば、日本ではサクラですが、韓国ではレンギョウ(=韓国語で「ケナリ」)の花をイメージします。
首都・ソウルは風化した花崗岩の岩山に囲まれています。しかし春になるとレンギョウの花に覆われ、美しい黄色に染まります。日本の「桜前線」のように、韓国の気象庁はこの時期には、「ケナリの開花情報」を連日発表するそうです。

「連翹の うす黄のさそふ なみだかな」は劇作家・俳人の久保田万太郎(1889-1963)の一句。春は別れと新しい出会いの季節です。少しばかりの涙を流したあとは、顔をあげて胸を張り、明日へと踏み出していきましょう。

レンギョウ(連翹)

モクセイ科レンギョウ属の落葉低木で、中国原産。樹高1~3m。花期は3~4月。葉が開く前に径2~3㎝の黄色い筒状花を咲かす。花は先端が深く裂け、4弁花に見える。葉は対生。実は丸味があり、乾燥させて薬用に。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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