こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今回は、誰もが知っている鳥のドバトを紹介しましょう。

「誰もが知っているのならば、わざわざ紹介しなくてもいいんじゃない?」と言う声が聞こえてきそうですが、知っているようであまり知られていないのが、このドバトなんです。
例えば、ドバトという名前の鳥はいません。
のっけからこの人は何を言い出すの?という感じですが、じつは正式な種名ではないのです。ドバトの正式な種名は、カワラバトといいます。

カワラバトは、地中海周辺や中東、西アジアなどの乾燥地帯に棲んでいる野生の鳥です。そのカワラバトを品種改良し家禽化したものを日本では総称としてドバトと呼んでいるのです。厳密にいえば、通信用に品種改良したのが伝書鳩、レース用に品種改良したのがレース鳩、野生化して野外に棲んでいる鳥をドバトと日本では呼んでいます。ですから、伝書鳩が鳩舎に帰らないで野生化すれば、ドバトになってしまうわけです。

カワラバトが家禽化されたのは、紀元前3000年頃の古代エジプトだといわれています。その目的は肉を食べるためだったそうです。その後は、カワラバトが元々持っていた帰巣本能を応用した伝書鳩が通信手段として使われるようになり、エジプトのファラオも利用していたんだとか。また、近代になるとハトを使ったレースが行われるようになりました。たくさんいる鳥の中で、食用以外にこれだけ人の役にたった鳥はハトくらいなのです。

さて、そのドバト。日本で見られるようになったのは、自力で飛んできたのではなく、人が持ち込んだからです。その歴史は古く、古墳時代の西暦391年に、倭が朝鮮へ出兵した際に持ち帰ったという説があります。そして、奈良時代になると白鳩が献上された記録があるので、その頃の日本には愛玩用の白いドバトがいたことがわかります。
では、今みたいにドバトが野外にいるようになったのは、いつくらいでしょうか。それはおそらく鎌倉時代ではないかと、私は思っています。というのも、京都の朱雀門にハトの巣があったとされる記述が歴史書などにあり、そのころにはすでに野生化していたことがうかがえるからです。

ところでドバトって、神社やお寺の境内にいるイメージがありませんか? 実際に今でもお寺や神社にはドバトがよくいます。じつはこれ、たまたまではないんです。平安時代末期ごろから、ハトは戦いの神の使いとされ、とくに八幡神社ではシンボルバードとなり、飼育されたり放されたりしてきました。それによって鎌倉時代以降、八幡信仰の広まりとともに、ドバトは神社をすみかとして全国に広まっていったと思われるのです。

さらに時代が進むと、神社だけでなくお寺にもドバトがいたようで、室町時代には「塔鳩」、安土・桃山時代には「堂鳩」と呼ばれるようになりました。さらに江戸時代になると、「堂鳩」が転じて、「土鳩」と呼ばれるようになり、ここで初めてドバトという名前が登場するのです。
ドバトの知られざる話をもう一つ。鳥なのに、ミルクで子育てをするって知ってましたか? しかも、オスも与えるんです。ただ、このミルクはおっぱいから出るわけではなく、食道の壁が肥大化し剥がれ落ちたもの。黄色いチーズのような粘り気のある液体がミルクみたいなので、「ピジョンミルク」と呼ばれます。ヒナは、親が吐き戻したピジョンミルクを飲んで大きくなるのです。

では、どうしてこんな特殊な食べもので子育てをするのでしょうか。それは、ハトの食べものが植物の種子や果実だからです。種子を食べる鳥はハト以外にもたくさんいますが、子育ての時は昆虫を与えることが普通です。ヒナの成長には、種子だけだと栄養が不足してしまうからです。その点、ピジョンミルクには、タンパク質や脂肪、リン、カルシウムなどのミネラルが含まれている完全栄養食。ハトは、まさに我が身を削って子育てをしているのです。ただ、我が身を削るには限界があり、ヒナはたいてい2羽しか育てられません。

昆虫などと違って季節に関係なくピジョンミルクはヒナに与えられますから、ドバトの繁殖期は1年中です。しかし、やはり繁殖活動が活発になるのは、暖かくなる今の季節から。ハトの群れをよく見ると、「クルックー」と鳴きながら、ぐるぐると回っている鳥がいるのに気がつくと思います。これはオスが求愛ダンスを踊っているところなんです。なかなか動きがユニークなので観察にお勧めです。恋が成就するかそれとも破談になるか、見届けてあげましょう。

写真提供:柴田佳秀

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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