こんにちは。俳人の森乃おとです。
6月に入り、池を円いスイレン(睡蓮)の若葉が覆う季節となりました。葉の間からは、ちらほらと白い大きな花も開き始めます。これから真夏にかけて葉は一層大きく密になり、花は咲き誇り、私たちの目を喜ばせてくれることでしょう。

古代エジプトで「ナイルの花嫁」と呼ばれた神聖な花
スイレンはスイレン科スイレン属の多年生の水生植物で、世界中の温帯と熱帯に50種ほどが分布します。
同じ季節によく似たハス(蓮)の花も咲きますが、葉に切れ込みがあるのがスイレン、切れ込みがないのがハス。また、スイレンは水面近くで咲き、ハスの花は水面より高く上がり咲くことで見分けることができます。

古代エジプト文明では、ナイル川に浮かぶ青と白の2種類のスイレンの花は、「ナイルの花嫁」と呼ばれ、再生を象徴する花として神聖視されました。太陽はスイレンの花から昇ると考えられ、いまでもエジプトの国花とされています。
日本には北海道から九州までヒツジグサ(未草)と呼ばれる1種だけが自生していましたが、明治時代に外国の品種が観賞用に導入され、多くの園芸種も作られました。
花色はヒツジグサが白だけなのに対し、園芸種は赤やピンク、黄、青とカラフルです。

睡蓮は、未の刻に花を閉じる
「睡蓮」の表記は、ヒツジグサに当てられた漢字名。夜になると花を閉じて固くすぼめる状態が、まるで睡眠に入るかのように見えるためです。
ヒツジグサという名前の由来について、江戸時代の本草学者・貝原益軒が1709年に刊行した『大和本草』によると、次のように書かれています。
「ヒツジグサハ京都ノ方言ナリ。此(この)花ヒツジノ時ヨリツボム」。
ヒツジノ時とは「未の刻」のことで、現在の午後2時の前後2時間頃を指します。
睡蓮は午前10時頃に開花し、午後4時頃には花を閉じます。このように花の開閉が定時に行われる植物を「日花=ゾンネブルーム(オランダ語)」とも呼びます。

学名は、ギリシャ神話の「水の妖精」から
スイレンは、地下茎から放射状に花柄と葉柄を出し、葉は浮水葉で、水面に浮かびます。大きさは15~30㎝。円形ですが、1本の深い切れ込みが入ります。近縁種のハス(ハス科ハス属)と異なり、水を弾く撥水性はありません。また、ハスの葉は空中にまで伸び、切れ込みはありません。
花期は6~9月。花も水面に浮かび、花径は3~7㎝。外側に4枚の萼片(がくへん)、内側に5~15枚ほどの花弁を持ち、雄しべは黄色です。
学名は「Nymphaea tetragona」(ニムフェ・テラゴーナ)。「ニムフェ」はギリシャ神話の水の妖精で、「テラゴーナ」は「四角い」の意。花を載せている花托(かたく)が正方形をしていることから名づけられました。

スイレンには、水の妖精ニムフェが勇者ヘラクレスを愛し、恋に破れてナイル川に身を投げて花へと姿を変えたという、言い伝えもあります。
「睡蓮」の連作を描き続けたクロード・モネ
フランス人画家クロード・モネ(1840-1926年)は、おびただしい数のスイレンの連作を描いたことで知られています。晩年、パリ近郊のジヴェルニーに移り住んだモネは、セーヌ川の水を引いてスイレンの池と日本風の橋を造り、写生を続けます。

「彼ら(古き日本人)のまれに見る趣味の良さはいつも私を魅了してきた。影によって存在を、断片によって全体を暗示するその美学に私は共感を覚える」とはモネの言葉です。
その絵は次第に写実と具象の世界を離れ、色彩と光の純粋なイメージの追求に向かっていきました。
スイレンの花言葉は「清純な心」「純潔」「信仰」。
「清純な心」「純潔」は白く清らかな花姿から、「信仰」は、古代エジプトで復活と再生のシンボルとして崇められたことに由来します。

スイレンの花は3日間、開閉を繰り返したのち、静かに水中に没します。
眠りに就こうとするスイレンに、情熱の歌人・与謝野晶子は「この黄昏時に咲く睡蓮の花は、恋をしているのだろうか。あるいはどこか遠い国を思っているのだろうか」と思いを馳せます。

晶子は21歳で、当時妻子があった歌人・与謝野鉄幹と運命的な恋に落ち、生家を飛び出しします。そして歌集『みだれ髪』を発刊し、愛の激情を高らかに歌い上げます。世間を騒がせながら晶子は鉄幹の妻となり、のちに「最初の恋愛が殆ど私の生涯の全部」と語るほどに、鉄幹への愛に全てを捧げることになります。
晶子にとっての「睡蓮の花」は、太陽のようにたゆまず熱く燃え続ける、自身の愛そのものであったのかもしれません。
スイレン(睡蓮)
スイレン属の植物の総称。日本在来種はヒツジグサ(未草) 学名Nymphaea tetragona 英名 Water lily スイレン科スイレン属の多年生水生植物。世界中の温帯と熱帯に50種ほどが分布。 花期は6 ~9月。花径は3~7㎝。4枚の萼と5~15枚の花弁からなる。葉は15~30㎝。円形で深い切れ込みがある。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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