べったら漬け

旬のもの 2023.10.19

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漬物男子田中友規です。

千枚漬け、柴漬け、壬生菜漬け・・・京都にはエース級の漬物がたくさんありますが、この歳になって、一番好きな漬物ランキングが変わるとは夢にも思っていませんでした。

べったら漬け、美味すぎる。いや正確には、徳川慶喜が好んだという食べ方が、あまりにセンスが良くて脱帽したのだ。

そもそもべったら漬け自体、関西ではあまり馴染みがない。しかし調べてみると東京では江戸時代から神社門前の露店で祭りや神事で市が立つ際、浅漬けの大根を米麹で漬け込んだべったら漬けが特に人気だったことから「べったら市」と呼ばれるようになったほどの人気の漬物だそう。東京の秋の風物詩として観光協会推奨の名産品にもなっている。

その作り方を見てみると、正直うぅ〜ん、と唸ってしまう。
まず厚めに皮をむいた大根を塩押しして水分を抜き、大量の水飴、そして米と麹で漬け込む。
つまり酸味を活かした乳酸発酵漬物とはまったく違い、甘々した環境で麹菌が米をアミノ酸へ分解し発酵する過程で旨味が生まれ・・・まぁ、とにかく・・・とても甘いのだ。

仕上がりも、塩でつけた大根とはまた雰囲気が異なり、艶やかな半透明。

漬物男子としては、米に合うのか、というところが一番気になるのだが、このレシピを見る限り、正直うぅ〜ん、な訳である。甘しょっぱい漬物ならまだいいのだが、完全に甘いのだ。

よく東京でとんかつとか、丼物とかに付いてくることがあるが、ほんとは口の中をキリッとリセットしてくれる糠漬けとかさ、白菜漬けがいいのよ。まぁ食べるけど。

漬物研究者としては、この甘いべったら漬けがなぜこんなに人気なのか腹落ちしていなかったのだが、徳川慶喜が厚く切ったべったら漬けに、おかかを皿にどっさり盛って、しょうゆをかけて食べた、という文献を見つけ、これか!とピンときた。

麹と魚はよく合う。西京漬けは特に有名で、西京味噌に酒・みりん・砂糖などを加えた漬け床に魚や肉を漬けたものをいう。麹によって発生したアミノ酸、魚に含まれるグルタミン酸、そして漬け込むことによってイノシン酸が加わり、とてつもない旨味の塊が完成する。

その旨味の構造が、べったら漬け×おかかでも再構築される図が頭に浮かんだ。

写真提供:田中友規

美味すぎる。旨味の構造が奇跡的に均衡が取れていて、米と合うとかじゃなくこれだけでいける。即席で作ったので大根は薄めだが、本来なら慶喜氏の言う通り、厚く切ってほしい。しょうゆをかけるかどうかは個人差があると思うが、味の引き締まり方が強くなるので一度試していただくのがいいだろう。
いままでまったくノーマークだったべったら漬けに、恋に落ちたといっても過言ではない。
いやまて、関東の人には当たり前のことなのか?

写真提供:田中友規

コラムに書くということは、「べったら漬けにおかか」なんて当たり前じゃないか、という批判が相次ぐのではないだろうか、と一抹の不安がよぎったが致し方ない。知らなかったのだ。だって京都にはべったら漬けは売っていないから!
が、改めて近所のスーパーでべったら漬けを探してみると、京都の漬物屋でも普通に扱っていた。なんだよ、ただ自分が興味なかっただけで売っているじゃん!漬物男子なんて言っていますけどね、まだまだ知らないことばかり。

米麹を使ったお漬物、実はもうひとつ教えたくない逸品があるのですが、コラムを読んでくださっている皆様にだけこっそりと。
新千歳空港に鮭の専門店がありまして、店内で注文してから握ってくれるおむすび屋さんがあります。出発時刻を見計らって注文し、機内で出来立てを頬張るのが自分的に最高に贅沢なんですが、本当のおすすめは冷蔵コーナーにある「菜の花とニシンの麹漬け」。先述の通り、米麹と魚の旨味構造です。あまりに地味で買う人も多くないと思いますが、もし思い出したらお試しあれ。

漬物男子、乳酸菌ばっかりじゃなく、麹菌のことも勉強しなくちゃね。

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田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

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