コンビニ弁当に入っているお漬物、チンするとしなしなになってしまって嫌だという人がいるようですが、一向に構わない漬物男子田中友規です。
ま、確かに柴漬けなんかはチンされてしまうとぐんにゃりとして口当たりが悪いのだが、はりはり漬けは強い。

数センチの黄色い棒状できゅっと縮こまった様子の漬物なのだが、温められても冷凍されてもその「カリカリ」の食感は損なわれることがない。そのタフさが評価され、現在の地位を獲得しているのだが、その正体は割り干し大根。田舎にいくと軒先に大根が吊るしてある風景に見覚えがある人もいるでしょう、アレです。
三浦大根の産地である神奈川県の三浦半島では、郷土料理としてはりはり漬けが認定されている。冬に収穫した大根の根元の部分を切り落とし、16〜20等分に又割き状態にする。日当たりのよい場所で乾燥させると2週間ほどでカッサカサの麻紐のようになるのだが、とてもじゃないけど食べ物には見えない。おまけにむちゃくちゃ匂いが強い。
しかし水分がなくなった状態なので腐ることがないから、食べたい時に醤油、砂糖、味醂、甘酢などですぐに戻すことができるし、そのみすぼらしい姿からは想像がつかないほど旨味が凝縮されたお漬物となるのだ。

大根は偉大だ。
なにしろ天保時代に書かれた『漬物塩嘉言』では、すでに干した大根を昆布、生姜、みょうがを酒、醤油、梅酢で漬けるという現代と変わらないレシピが紹介されているのだからキャリアが違う。漬物界の殿堂入りで間違いない。
割り干し大根、切り干し大根、丸い輪切りで冷凍させた凍み大根など保存の仕方も様々。秋田県のいぶりがっこも同じく大根を乾燥させ「パリパリ」にする製法だが、雪深い地域のため室内の囲炉裏の上の屋根裏で乾燥させることで自然と燻蒸されスモーキーな香りがつく。燻蒸することで殺菌作用があがるため、東北の長い冬の巣篭もり暮らしにぴったりなのだ。

最近ではポテトサラダのアクセントとしてベンチ入りすることもあり、いぶりがっこも都会化が進んでいる。自宅でも簡単に鍋を使って割り干し大根をスモークすることができ、近しい味にすることができるので、興味がある方はぜひ試してみてほしい。
さて、中央がはりはり漬け、北がいぶりがっこなら、南はどうだろう。
調べてみると壺漬けが九州発祥というではないか。
壺漬けもまた「ポリポリ」の食感が特徴の橙色のたくあんを思い出すが、壺とは?その歴史は文禄元年、豊臣秀吉が朝鮮出兵にむけて、薩摩半島から「唐漬け」を食料として積み込んだという記載があるそう。

製法は、干して乾燥させた大根に海水を塗りつけながら杵でついて身を柔らかくし、大きな甕で半年ほど塩漬け、発酵させた漬物で、薩摩半島南端の山川港で作られたことから「山川漬け」ともいうらしい。もちろん今では大量生産に対応するため、壺ではなく大型タンクで作られているから、山でも川でも壺でもないが、それでもコンビニ弁当の端っこに今日もしっかり漬物は収まっている。
製法や名前が時代によって変化することもあるでしょうが、うまく保存してあの歯応えをいつでも食べられるように、という日本人の漬物への情念が、漬物の食感のオノマトペに宿っているような気がする。

個人的には、はりはり漬けはカリカリ、いぶりがっこはパリパリ、壺漬けはポリポリ。
カリカリ漬けも、パリパリ漬けも、ポリポリ漬けもどれも一緒だと言われそうだが、その小さな音の違いを想像するだけで白飯が恋しくなってしまうのは僕だけではないでしょう。
ところでコンビニ弁当が美味しそうに見える条件として、3色以上の色が入っていると視覚的に効果があるそうだ。黄色担当は令和以降も、ずっとはりはり漬けだと嬉しいな。


田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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