ヤマガラ

旬のもの 2023.11.26

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

秋は、果物が美味しい季節ですね。先日、私は近所のブドウ園に行き、いろいろな品種をたくさん買ってきました。完熟のブドウはびっくりするくらいの美味しさで、食べるのが止まらなくなりそうです。しかし、いっぺんに食べてしまうと後が悲しいので、ここは我慢。毎日、少しずつ食べて1週間楽しみました。たくさんの美味しいものを目の前にすると、後のことを考えるのはけっこう難しいものですが、鳥の中には、そんな賢い行動をするものがいます。それが今回紹介するヤマガラです。

ヤマガラは、日本や朝鮮半島、台湾、中国の一部に分布する東アジアの小鳥です。日本が分布の中心で、小笠原諸島と八重山諸島を除く、ほぼ全国の森で出会うことができます。大きさはスズメとほぼ同じくらい。頭と喉が黒く、顔はクリーム色、背中とお腹が鮮やかなレンガ色のなかなかカラフルな装いの小鳥です。雌雄どちらも同じ色なので、見分けることはできません。また、南にいる鳥ほど、色が濃くなる傾向があります。

出会うのは、基本的には森の中です。平地から山まで、けっこうどこの森でも見る気がしますが、特に多いのが照葉樹林です。昼なお暗いうっそうとした森を歩くと、梢から「ニィーニィーニィー」と鼻にかかったようなヤマガラ独特の声が聞こえてきます。じつは、照葉樹林にヤマガラが多いのは、理由があります。それは大好きな食べものがたくさんあるから。照葉樹林に多いシイ類にはドングリがなり、ヤマガラの大好物なんです。

さて、そのドングリですが、秋になるとたわわに実ります。出来不出来はその年によって違いますが、大豊作の年は地面を覆い尽くさんばかりに落ちていることがあります。そんな照葉樹の森は、ヤマガラにとって食べものが無尽蔵にある理想的な生息環境なんですね。

しかし、そのドングリも1年中いつでもあるわけではありません。たくさんある時と無い時の差が激しいのです。そこでヤマガラは知恵を使います。それは、たくさんあるうちに貯えておくこと。地面や幹の樹皮の下などのあちこちにドングリを隠して、食べものが少なくなったときに取り出すのです。この行動を貯食というのですが、まさに備えあれば憂い無しです。

エゴノキの実をくわえるヤマガラ 

ヤマガラはドングリの他にも、ハシバミやシキミ、エゴノキなどの実もよく食べます。なかでもエゴノキの実はシイのドングリと同じくらい大好物なようで、森の中で実がなっているエゴノキで待っていると、たいていヤマガラがやって来ます。

じつは、エゴノキの実には毒があります。そんな実を食べて大丈夫なのか心配になりますが、毒があるのは果肉の部分だけで、中にある種には毒がありません。両足で挟んで固定してつつき、くちばしで毒がある部分を取り除いて種の中身だけを食べます。静かな森の中に、コツコツと種をつつく音が響き、その音でヤマガラの存在に気づくことも秋にはよくあります。

エゴノキの実も、ドングリと同じように貯えます。先日、近所の林でエゴノキの実を食べる様子を観察したのですが、それはもうひっきりなしに、あっちの土の中、こっちの幹の樹皮の下へと実を埋めまくっていました。あんなにいろいろな場所に隠して、忘れてしまわないかと心配になりますが、そのへんは大丈夫で、ちゃんと覚えているそうです。

しかし、なかには食べられないでそのままになることがあり、そんな種は翌年に芽を出します。ヤマガラとエゴノキの関係を詳しく調べた研究では、ヤマガラはエゴノキの実がちゃんと熟してから持って行くそうです。エゴノキは、ヤマガラにご褒美としてたくさん種を提供する代わりに、子孫を残す種蒔きの仕事をしてもらっているわけです。また、ヤマガラにとっても新しいエゴノキが大きくなれば、やがて自分の食べものを生産してくれることになりますから、双方にとっても良いことずくめ。自然というのは、本当によくできているなあと感心してしまいますね。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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