アカシア

旬のもの 2024.03.14

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こんにちは。俳人の森乃おとです。
3月、黄色く丸い小花を陽だまりのように枝いっぱいに群れ咲かせ、ミモザがふわりと香る季節となりました。ミモザは厳しい冬を耐えてきた人々の心を明るく照らし、春の訪れを告げてくれることから、ヨーロッパでは「冬の太陽」とも呼ばれ愛されてきました。

オジギソウ(mimosa)に似ているから「ミモザ」

ところで「ミモザ」とは、マメ科アカシア属の植物の俗称。オーストラリア原産の常緑高木で、「ミモザアカシア」とも呼ばれます。

本来「ミモザ(mimosa)」はマメ科オジギソウの学名です。はじまりは、南フランスからイギリスに輸入されるフサアカシアの切り花を、葉や花の形がオジギソウに似ていることから「ミモザ」と誤用したことからだそう。

現在では、アカシア属の植物全体の呼び名として、「ミモザ」あるいは「ミモザアカシア」の名が使われるようになりました。

ちなみに「ミモザ」は古代ギリシャ語のミモス(mimos)=パントマイムの基になった無言劇に由来します。オジギソウの小葉が、刺激を与えると静かに次々に閉じていく様子から生まれました。もちろん、アカシア属の葉は触れても動くことはありません。

日本でミモザはギンヨウアカシアのこと

アカシア属の植物は世界に約1350種が分布し、そのうち約1000種がオーストラリアに自生しています。ヨーロッパではフサアカシアが中心ですが、日本でミモザアカシアと呼ばれるのは、ほとんどがギンヨウアカシア(銀葉アカシア)。葉に銀色の粉が吹いて銀白色に見えるのが特色です。

ギンヨウアカシアの樹高は6~7m、フサアカシアは20~30m。花期はどちらも早春の2~3月。球状の黄色い花の塊は、径5~30㎝にもなります。両種ともオジギソウに似た羽状複葉です。

少女期の ふしぎな眩暈(めまい) 花ミモザ――堺信子(さかい・のぶこ/1914―2004)

さて、日本において「ミモザ」という花の名を一気に知らしめ、読者たる少女の憧れを誘った漫画といえば、『ミモザ館でつかまえて』(1979年発表)。J・D・サリンジャーの有名な小説『ライ麦畑でつかまえて』にちなみ、瑞々しくも新しい世代の感覚が描き出されています。作者は、世に新風を吹き込んだ1949(昭和24)年生まれの少女漫画家の一群、「24年組」の一人である大島弓子です。

ヒロインは豪邸に下宿することになった新米女性英語教師。部屋からは庭に咲く満開のミモザを眺めることができます。家主は教え子の高校生で、やがて二人は恋に落ちるのです。
この漫画を読んで、ミモザの名を初めて知り、いつか実際に見たい、あるいは将来、自分の庭に植えたいと熱望した少女も多かったことでしょう。

堺信子氏の句は、遠き日の「少女期」が、黄金色に咲き誇るミモザの花とともに、懐かしくも切なく浮かび上がってくる瞬間を描き出しています。

『アカシアの雨がやむとき』のアカシアは、ニセアカシア

「ミモザ」はオジギソウの誤用で、本当の名は「アカシア」。そこにもう一つ「ややこしい話」が加わります。

長らく日本でアカシアと呼ばれてきたのは、初夏に咲く「ニセ(偽)アカシア」。北米大陸原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木で、1873年に渡来。生長が早く、白い花房が美しいので、街路樹や公園樹、砂防用に盛んに植えられ、鉄道の枕木や炭鉱の坑木などに広く使われました。蜂蜜の原料としても重要で、日本の蜜源の5割近くを占めています。

しかし、明治末年にギンヨウアカシアが移入されると、名前を「ニセアカシア」に変えられてしまいました。

1960年、西田佐知子歌唱で発表された抒情的な歌謡曲『アカシアの雨がやむとき』や、北原白秋の童謡『この道』に歌われた「あかしやの花」、これらの「アカシア」は、いずれも白い花びらを雨のように散らす「ニセアカシア」です。6月に開花し、観光名所の北海道札幌市北1条通りアカシア並木も、正確にはニセアカシアの並木です。

「アカシア」の名を聞き心に浮かぶのは、ミモザアカシアの鮮やかな黄なのか、それともニセアカシアの清楚な白なのか。それぞれの記憶の中にある「アカシア」は、どちらの花なのでしょう。

花ミモザ 溢るるごとき 明日はあり――佐藤美恵子(さとう・みえこ/1955~)

ミモザアカシアの花言葉は「愛」「感謝」「友情」

3月8日の国際女性デーは、女性の地位向上と差別撤廃のための統一行動日として、1975年に国連が制定しました。イタリアではこの日は「ミモザの日」とされ、家族や同僚など、世話になった女性たちにミモザの花束を贈り、感謝の気持ちを捧げる日とされています。

ところかわってフランスでは、2月に「ミモザ祭」が開催されます。そして「私がどれほどあなたを愛しているか、誰にも分かりはしない」という思いから、肉親の女性に対して贈られることが多いそうです。

愛と太陽の象徴であるミモザアカシア。厳しい寒さがようやくやわらぐこの季節、あふれんばかりの「愛」と「感謝」を込めて大切な人へと花束を捧げ、ミモザのように輝く明日を言祝(ことほ)ぎたいと思います。

ギンヨウアカシア(銀葉アカシア)

学名 Acacia baileyana
オーストラリア原産のマメ科アカシア属の常緑高木。ミモザ、ミモザアカシアとも呼ばれる。 樹高25m。2~3月に黄色い球状花の花房をつける。よい香りを放ち、葉は羽状複葉。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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