足元のセンス・オブ・ワンダー
冬芽

冬の宝物

前回は冬芽をご紹介しましたが、冬の宝物はまだまだたくさんあります。

まずはウスタビガの繭です。モダンアートのような美しい形。もちろん中は殻で羽化したあとのものですが、繭は真冬になっても鮮やかな若草色をして、裸木にポツンと付いています。

写真1

ウスタビガの繭は真冬の方がみつけやすくなります。これは裸になった栗の木で見つけました。遠目には枝先に若葉がひとつだけ芽吹いているように見えていました。手にとって観察してみましょう。出口はこんな感じになっています。自然の造形は本当に素晴らしいものですね。

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次はクスサンの繭。見事な網かごを作る蛾です。私は幼虫のときの姿も、とても好きです。刺したり、毒があるということもありません。見事に編まれた繭は「透かし俵(すかしだわら)」と呼ばれています。これも冬の方が見つけやすくなります。

写真3
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写真4

芸術品のようなゆりかごで、つい拾ってきてしまうもののひとつです。

次はこれ。なんだと思いますか? 森の中でみつけたメタリックグリーン。チョコレートの包み紙かと思ったのですが、自然界のものでした。

写真5

わずかに残っている十字のような模様をよく観察してみると、、、それはカメムシの中でももっとも美しいといわれ、愛好家の多いアカスジキンカメムシであることがわかりました。雪や氷に晒されているうちに、甲虫の持つ、こんなメタリックカラーが磨かれたように出てくるんですね。まさに森の宝石です。

写真6

次は、雪の上にパラパラと散っているニンニクスライス。これはウバユリの種です。薄いパラフィンのような構造で、わずかな風でもひらひらと舞います。少し日陰の森の中で、すっくりと立っている姿はよく目立ちます。花言葉は「尊厳」。まさにそんな雰囲気の強さを持っています。

写真7
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雪の上で、意外と多いのは苔の塊。冬の風や雪で飛ばされてしまうのか、苔の塊がポトンと落ちているのも愛らしいものです。まるで小さなユートピアのよう。大海に浮かぶ蓬莱のようにも、日本の姿のミニチュアのようにもみえます。

写真7

そして蓑虫もいくつか、みつけました。小さな枝や枯葉で、器用に家を作る蓑虫はオオミノガの幼虫。初夏に蓑の中で生まれた幼虫はすぐに糸を垂らして、旅に出ます。風の力を借りて、次の枝へと移りながら、葉を食べて成長します。蓑で身を守りながら、秋まで何度も脱皮を繰り返し、幼虫終齢を迎えてから冬眠に入るため、蓑虫をみかけるのは蓑が大きくなった秋以降です。

写真9

蓑虫のオスは春に羽化しますが、メスは成虫しても羽や足もなく、一生蓑の中で暮らしています。フェロモンを出してオスを誘い、卵の孵化を見届けると、蓑の底の穴から地面に落ちて、そっと命を終えるのです。オスの成虫も口が退化していて、交尾だけを目的に夜に飛びます。

長い糸を垂らし、ぶらぶらと揺れる見事な蓑は日本の冬の風物詩でしたが、90年代後半に入ってきた外来の寄生バエによって激減し、現在は絶滅危惧種に指定されています。都心でも当たり前にみかけたものですが、今は本当に出会うことが少なくなりました。

写真10

ほかにもこんな擬態をしているものもいます。木の色や質感もそっくりですね。擬態の世界は本当に面白く、一体どうやってこんな知恵を身につけるのかと驚くばかりです。

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この木に貼り付いているのもおそらく蛾の幼虫です。木の幹が少し黒ずんでいる部分。よく見てみると、擬態です。木の幹の節目模様とそっくりな色の模様もつけています。触ると意外とやわらかく、ちゃんと動きました。虫の世界は本当に生き抜く知恵にあふれています。

写真12

最後に、冬にみつけられるものをもうひとつ。アシナガバチの巣です。アシナガバチは人家の近くに小さな巣を作ることが多いのですが、性質は大人しく、畑や庭木の害虫を食べてくれる益虫です。

アシナガバチで越冬できるのは女王バチだけで、働きバチたちは晩秋になると静かに命を終えていきます。女王バチは単独で、木の皮の隙間などで孤独な眠りにつき、空き家となった巣は自然に落ちて、ゆっくり朽ちていきます。

冬になると落ちている小さな蜂の巣はアシナガバチのものであることが多いのですが、巣の材料は彼らの丈夫な顎で木の皮を削りとっては咀嚼して作りあげたものなので、ちょうど和紙と同じような素材です。

ふかふかして丈夫。じつに見事な六角形がみえます。春になると女王バチは自分で巣を作り始め、卵を産み、せっせと幼虫の世話をして、最初の働きバチを育てます。活動期は春から晩秋まで。巣は毎年使い捨てです。

冬の宝物はたくさんあります。ぜひセンス・オブ・ワンダーの目を持って、自然界の美しいものを見つけてみてください。そしてその生態や他の季節の姿について興味をもって、ちょっと調べてみていただけると、さらに色々な発見があるのではないかと思います。

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高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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