足元のセンス・オブ・ワンダー
スベリヒユ

今回、ご紹介するのはスベリヒユです。ツヤのある肉厚の葉と赤い茎が、見分けるポイントです。乾燥に強く、畑など陽当たりのよい地面を這うように繁殖します。その生命力の強さゆえに厄介な雑草とされていますが、その強力な解毒、消炎作用は「天然の抗生物質」といわれるほど。解熱、咳止め、止血、鎮痛、整腸、湿疹、虫刺され、皮膚炎、抗菌などに昔から使われてきました。

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入間道の大家が原の伊波為蔓 引かばぬるぬる吾にな絶えそね 万葉集

万葉集にも「引かばぬるぬる」と詠まれた、この伊波為蔓(いはいづる)がスベリヒユとされており、平安時代の文献ではウマヒユの名で食材にあげられています。スベリヒユの名はこの滑るような葉のヌルヌル感からきたものです。

畦や畑のほか、潮風にも強く、海辺にもよく生えています。草取りをして炎天下に放置しても、また根付いてしまうほどの生命力の強さ。江戸時代は日照り続きのときの食料となる救荒食物でもあったことから、日照り草ともいいます。

写真3

漢方薬では馬歯莧(ばしけん)として知られ、別名は五行草(ごぎょうそう)。葉が青く、茎が赤く、花は黄色、根は白く、種が黒いことから、陰陽五行の五行の色がすべて揃った薬草の意です。

とくに近年ではオメガ3脂肪酸の含有量が抜群に高いことが証明され、アトピーや皮膚炎、血圧や心臓疾患など、効能は多岐に渡ります。オメガ3脂肪酸は善玉菌を増やして腸内環境を整え、免疫力をアップさせる貴重な油分で、えごま油や亜麻仁油、青魚などに含まれていますが、じつは雑草と思われているこのスベリヒユの含有量の方が、圧倒的に高いのです。

そのため長寿菜、長命菜などの呼び名もあり、昔の人はその効果を実感していたのでしょう。山形ではヒョウと呼ばれ、干してぜんまいのように冬の保存食として活用し、病除けの縁起物として正月に食される郷土食となっています。夏の土用に干したものがいちばん美味しいとされるのは、もっとも元気に繁殖するのが夏だからでしょう。

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ほぼ全国でさまざまな呼び名がついていることから、昔から人々の暮らしに身近であったことがよくわかります。長野では日照り草、群馬ではごんべえ、鹿児島では仏耳(ホトケミミ)、沖縄ではニンブトゥカー。全国どこにでもあって、野菜として流通することがないために忘れられてしまった有用植物のひとつです。

天然の抗生物質ともいわれ、オメガ3脂肪酸の含有量ピカイチの植物ですから、ぜひ見直していただきたいものです。

食べ方は茹でておひたしにすることが多く、辛子醤油、胡麻和えなどで味つけします。特にクセもなく食べやすい味ですが、収斂作用のあるわずかな酸味と、ぬめりが特徴です。包丁で叩くと、さらにぬめりが出るので納豆やオクラとも相性がよく、夏バテ防止にも最適です。

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黄色の花は夏の間に咲きますが、一日花で、晴れた日の午前中しか開花しないため、あまり目につかないかもしれません。一方、園芸品種のポーチュラカはこのスベリヒユの改良品種で、白、ピンクやオレンジ、赤などさまざまな色の花を咲かせ、ハナスベリとも呼ばれます。水が少なくても枯れず、丈夫でよく広がるので、雑草よけのグランドカバーとしても人気があります。ポーチュラカの花は、食べることもできるエディブルフラワーです。

写真6-1

スベリヒユは夏の暑さを好み、乾いた土地を選ぶ多肉植物特有のCAM植物で、一般の植物とは真逆で、昼間の水分の蒸発をふせぐために、夜間に気孔を開いて二酸化炭素を溜め込み、その二酸化炭素を使って光合成を行っています。その二酸化炭素の貯蔵に使われるのがリンゴ酸などの有機酸で、酸味があるのはそのためです。

最近は道の駅などで販売されていることもあります。近くに生えているのをみかけたら、長寿菜として、ぜひ召し上がってみてください。

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高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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