足元のセンス・オブ・ワンダー
石蕗

日陰に明るく咲く自灯明の花

石蕗(つわぶき)は日本原産のキク科の植物で、海辺の石や岩の近くに咲いていることからこの名があります。玄関や庭木の根元などに植えられることが多いのですが、本来は海岸沿いの断崖絶壁のような石だらけの場所で、しぶきを受けながらでも、たくましく咲く花。そのため「謙譲」「愛の甦り」「先見の明」などと並んで「困難に傷つけられない」という珍しい花言葉がつけられています。

写真1

ちまちまとした海もちぬ石蕗(つわ)の花 小林一茶

海辺を離れても、ふと海辺の風景を思い浮かべているような一茶の句です。石蕗が咲く頃はよく雨がしとしとと降りますので、花にそれぞれ水を湛えていたのかもしれません。つわぶきという読みは、葉の形が蕗(ふき)に似ていることから、ツヤのある蕗の意で、分厚く、艶のある丈夫な葉は海風に耐えられるように進化したと考えられています。日陰でもよく育ち、冬でもつややかな葉を見せるので、園芸品種として広まったのでしょう。

写真2

淋しさの眼の行く方やつはの花 大島蓼太

寂しい冬にハッとするようなこの花の色合いに自然に目がとまります。石蕗の花を詠む俳人は多く、季語としては石蕗と書いてツワと読みます。季節の淋しさだけでなく、何か心の淋しさを抱えているとき、濃い黄色の花はポッと灯った光のように眩しくみえます。

写真3

黄色は心に灯をともす希望の色。かつて白い花ばかりを好んで飾っていたスタイリストの親友がガンで余命わずかとなったとき、「黄色の花がいい」と言ったことをよく思い出します。

庭木にあっても野草の素朴さを持つ石蕗は華やかな温室育ちの花と違って、人生の厳しさや淋しさを直視させるような強さを持っているように思います。静かに自分と向き合い、正しい心でものを観る。そんな姿勢を教えてくれるような気がします。

写真4

石蕗の花心の崖に日々ひらく 横山白虹

仏教には自灯明(じとうみょう)という言葉があります。自分を頼りに、自分を灯火として歩くという意味で、釈尊の最後の教えとされています。出口がわからないような暗闇の中でも、しっかりと自分の運命を受け入れ、自分を信じ、自分の心の灯を見つめて歩く。冬に咲く素朴な石蕗をみていると、そんなイメージが湧いてきます。

写真5

石蕗については和暦コラムにも書いていますので、こちらをご覧ください。
和暦コラム 石蕗の花 https://www.543life.com/column.html

石蕗の花は初冬の季語で、ちょうど立冬を迎える11月上旬ごろから咲き始めます。花期も長く、黄色の花に近づいてのぞいてみると、必ずといっていいほど来訪者がいます。石蕗のほか山茶花(さざんか)や白い茶の花、ボールのような八つ手など、冬に咲く花はいずれも小さな虫たちにとっては重要な蜜源です。最後のいのちをつなごうと、蝶たちも日々たくさん舞っています。

写真6

和暦では神無月に相当し、ポカポカした陽気が戻ってくる小春日和が訪れるため、小春月ともいいますし、石蕗日和(つわびより)という季語もあります。石蕗日和は、それに気づいた人にだけ訪れる寧日です。

バックナンバー5月

キランソウ

2018/5/15up
バックナンバー6月

ニワゼキショウ

2018/6/22up
バックナンバー7月

スベリヒユ

2018/7/24up
バックナンバー8月

ヤブガラシ

2018/8/20up
バックナンバー9月

ゲンノショウコ

2018/9/26up
バックナンバー10月

ハキダメギク

2018/10/24up
バックナンバー11月

石蕗

2018/11/22up
高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

和暦コラム

和暦コラム

高月先生による、季節を感じる毎週の連載コラムです。
旬のコラム

旬のコラム

四季折々の旬の食材をご紹介します。
和風月名コラム

和風月名コラム

豊かな自然と季節感から生まれた美しい和風月名をご紹介します。
かさねの色コラム

季節の色(かさねの色目)コラム

表地と裏地の配色で季節をあらわす「かさねの色目」をご紹介します。
足元のセンス・オブ・ワンダー

足元のセンス・オブ・ワンダー

足元に広がる小さな小さな世界の物語をお届けします。
ページトップ